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M-VAVE FM-1のカスタムFirmwareについて調べていると、興味深い情報が見つかりました。
2026年11月に入り、海外の開発者コミュニティで、FM-1の一部の新しい個体に搭載されているFlashメモリが、従来のものと異なっているという報告が出ています。
これによって、一部のカスタムFirmwareでは、設定が保存されなかったり、Firmwareの更新が正常に進まなかったりする場合があるようです。
ただし、最初に整理しておきたいことがあります。
これはFM-1そのものが故障しているという話ではありません。
新しいFlashメモリを既存のFirmwareが正しく認識できない、というソフトウェア側の互換性問題です。
今回は、現時点で確認できる情報を整理しながら、その仕組みと注意点を考えてみたいと思います。
※本記事は2026年11月5日時点の開発者資料・ユーザー報告を基にしています。筆者の所有するFM-1で新旧Flashチップを直接比較したものではありません。
FM-1のFlashメモリに何が起こったのか
今回の情報は、カスタムFirmwareを集約しているThe Firmware Hubや、FeluccaのGitHubで報告されています。
従来のFM-1には、Puya製のP25Q80というFlashチップが使われていました。
ところが、2026年秋以降に流通した個体の一部で、UC25HQ80という別のFlashチップが確認されています。
両者の仕様を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 従来のFlash | 新しい個体の一部 |
|---|---|---|
| 型番 | Puya P25Q80 | UC25HQ80 |
| JEDEC ID | 0x856014 |
0xB36014 |
| 容量 | 1MiB | 1MiB |
| 基本方式 | SPI NOR Flash | SPI NOR Flash |
| カスタムFirmwareの対応 | 従来からの対応が中心 | Firmwareとバージョンによる |
容量はどちらも1MiBです。
また、開発者の報告では、基本的なSPI NOR Flashの読み書きコマンドも共通しているとされています。
つまり、現時点で確認されている主な違いは、チップを識別するためのIDです。
それなのに、なぜFirmwareが正常に動かなくなるのでしょうか。

【新旧FlashチップとFirmware互換性】
:FM-1の一部の新しい個体では、従来とは異なるFlashチップが確認されています。容量は同じでも識別IDが異なるため、カスタムFirmwareによっては保存や更新に影響する場合があります。
そもそもFlashメモリとは何か
ここで少しだけ、Flashメモリの役割を整理してみましょう。
FM-1の内部では、プログラムを実行するプロセッサーと、プログラムやデータを保存するFlashメモリが連携して動いています。
Flashメモリは、電源をOFFにしてもデータを保持できる不揮発性メモリです。
例えば、Firmwareのプログラム本体や、保存したPreset、設定、プロジェクトなどを保持するために使用されます。
一方、RAMは動作中のデータを扱うためのメモリで、通常は電源を切ると内容が失われます。
この違いが、今回の互換性問題を理解する鍵になります。
JEDEC IDとは?
Flashチップには、メーカーや製品を識別するためのIDが用意されています。
これをJEDEC IDと呼びます。
Firmwareによっては、起動時にFlashチップのIDを読み取り、対応しているチップかどうかを確認します。
例えば、従来のP25Q80だけを認識するように作られたFirmwareでは、
0x856014
というIDは正常に認識できます。
ところが、新しいUC25HQ80では、
0xB36014
という別のIDが返ってきます。
このIDがFirmware側の対応リストに含まれていないと、未知のFlashチップとして扱われる場合があります。
その結果、実際には基本的な読み書きコマンドが共通していても、安全のためFlashへの書き込みを行わない設計になっていることがあるのです。
なぜ設定が保存されなくなるのか
今回報告されている問題の一つが、設定やプロジェクトの保存です。
例えば、カスタムFirmwareを起動して音色やパターンを作成します。
画面上では保存できたように見える場合があります。
しかし電源をOFFにし、再び起動すると、保存したはずのデータが消えている。
これは、データがFlashメモリへ書き込まれず、RAM上にしか保持されていないことが原因と考えられます。
The Firmware Hubでは、対応していないFirmwareで「flash error」や「SAVED (RAM)」といった表示が出る場合があると説明しています。
つまり、
一時的にデータを保持できることと、電源OFF後も保存できることは別の問題なのです。
音楽制作では、この違いは重要です。
例えば、シーケンサーでパターンを組み立て、何時間もかけて作品を作ったとします。
それが電源を切ると消えてしまうのでは、安心して制作を進めることができません。
また、更新プログラムがFlashチップを認識できない場合は、Firmwareの書き換えそのものが拒否されることもあります。
Feluccaでは早くも対応が始まっている
今回の報告に対して、カスタムFirmware開発者側も対応を進めています。
例えばFeluccaでは、2026年11月3日にGitHub上で新しいFlashチップについての問題が報告されました。
開発者はこれを受けて、新しいJEDEC IDを認識できるように修正しています。
そして翌11月4日には、対応を含むFelucca 1.8.2 betaが公開されました。
このバージョンでは、従来のPuya P25Q80に加えて、UC25HQ80も認識するよう変更されています。
ただし、ここで注意したいのは、対応コードが追加されたことと、すべての個体で安定動作が確認されたことは同じではないという点です。
GitHubには、新しいFlashチップを搭載したユーザーから、beta版の書き換えが成功し、設定やプロジェクトも電源OFF後に保持されたという報告が寄せられています。
一方、開発者自身は新しいチップを搭載した実機での十分な検証がまだ必要だとしています。
つまり、改善は進んでいますが、今後の確認も必要という状況です。
なお、ほかのカスタムFirmwareでも対応が進められています。ただし、対応状況はFirmware名だけでなく、個々のバージョンによって異なります。
導入する際には、必ず最新のリリースノートを確認する必要があります。
純正V16でも同じ問題が起こるのか?
ここは特に誤解しないようにしたい部分です。
今回確認できた問題は、主としてカスタムFirmware側のFlash認識に関するものです。
新しいFlashチップを搭載したFM-1で、純正V16も正常に動作しないと確認されたわけではありません。
また、Flashチップの変更と、純正FirmwareのV15からV16への進化は別の話です。
V16では8パート・マルチティンバー化やシーケンサー機能の強化などが行われました。
しかし、これらは主としてFirmwareの機能変更です。
一方、今回のFlashチップの違いはハードウェア側の構成に関係します。
したがって、V16を使用しているから新しいFlashチップを搭載しているとも、V15だから古いチップを搭載しているとも断定できません。
少なくとも現時点では、Firmwareのバージョンや購入時期だけで判別することは避けた方がよさそうです。
自分のFM-1はどちらのFlashチップなのか?
今回の情報を知ると、自分のFM-1がどちらのFlashチップを搭載しているのか気になるかもしれません。
しかし、確認のために本体を分解する必要はありません。
FM-1向けのバックアップ・書き換えツール「M-Flasher」では、USBのダウンロードモードを利用してFlashチップの識別情報を確認できます。
新しいFlashチップを搭載したユーザーの報告でも、M-Flasherが
flash 0xB36014
と表示した例が確認されています。
ただし、M-FlasherはFirmwareの書き換えやBootloaderの変更も行えるツールです。
Flash IDを確認したいだけなら、書き換え操作やBootloaderの変更を行う必要はありません。
使用する場合は、最新版の説明を読み、読み取り・情報確認と書き込み操作を明確に区別することが重要です。
また、現状の純正Firmwareで問題なく使用できているのであれば、急いで調べたり、Firmwareを書き換えたりする必要もありません。
カスタムFirmwareを導入したくなったときに、改めて確認すればよいと思います。
カスタムFirmwareを導入する前に確認したいこと
今後、FeluccaやSLOOPなどのカスタムFirmwareを使ってみたいと考えている場合は、次の点を確認しておくと安心です。
- 現在のFirmwareと保存データを確認する
Presetやプロジェクトを失わないよう、対応する方法でバックアップを取ります。 - 自分のFlashチップに対応しているか調べる
新しいUC25HQ80を搭載している場合は、JEDEC ID0xB36014への対応が明記されているかを確認します。 - 正式版とbeta版を区別する
新しいFlashに対応していても、試験段階のFirmwareでは未確認の動作が残っている場合があります。 - 復旧方法も事前に確認する
元のFirmwareへ戻す方法や、その際に保存データがどう扱われるのかを確認しておきます。 - 問題が起きたら更新を繰り返さない
保存できない、更新が途中で停止するなどの症状が出た場合は、むやみに別のFirmwareを続けて書き込まず、開発元の情報を確認します。
特に重要なのは、問題が起きてから復旧方法を探すのではなく、最初に戻し方まで確認しておくことです。
The Firmware Hubには復旧手段もまとめられていますが、すべての症状が簡単に解決するとは限りません。
また、カスタムFirmwareの使用やBootloaderの変更に伴う保証上の扱いも、購入先やメーカーの条件を確認しておく必要があります。
今回の問題から見えてくる、FM-1のもう一つの特徴
今回のFlashチップ変更は、FM-1だけに限った特殊な話ではありません。
電子楽器に限らず、同じ製品名のまま内部部品が変更されることはあります。
部品の調達や製造工程の変更など、考えられる理由はいくつもありますが、今回のFM-1についてメーカーがどのような理由で変更したのかは確認できていません。
そして、通常は利用者が内部部品の型番まで意識することは、それほど多くありません。
しかしFM-1の場合は事情が少し異なります。
第三者によってカスタムFirmwareが開発され、同じハードウェアがまったく異なる楽器として動作する環境が広がっているからです。
そのため、通常の製品利用では表面化しないようなハードウェアの違いが、カスタムFirmwareとの互換性という形で見えてきます。
ある意味では、それだけFM-1の開発コミュニティが活発になっているということでもあります。
そして今回、問題が報告されてから短期間で修正コードや試験版が公開されたことも興味深いところです。
ハードウェアの仕様変更に対して、ソフトウェア側が対応を進めていく。
FM-1は、メーカーが完成させた一台のシンセサイザーであると同時に、ユーザーや開発者によって可能性が広がっていく楽器にもなりつつあります。
今回の互換性問題は、その自由度と難しさの両方を示しているように思います。
まとめ——今すぐ心配する必要はないが、知っておきたい情報
今回確認できた内容を整理すると、次のようになります。
- FM-1の一部の新しい個体で、従来とは異なるFlashチップが確認されている。
- 両者の容量は同じだが、JEDEC IDが異なる。
- 古いカスタムFirmwareでは、新しいIDを認識できず、保存や更新に問題が出る場合がある。
- Feluccaなどでは、すでに新しいFlashチップへの対応が進められている。
- 純正Firmwareで問題なく使用しているユーザーが、直ちに書き換えや対処を行う必要はない。
今回の記事は、FM-1ユーザーに不安を与えるためのものではありません。
むしろ、今後カスタムFirmwareを使うときに、何を確認すればよいのかを理解しておくための情報です。
私自身、今後のFM-1シリーズではFeluccaやSLOOPなどを取り上げ、実際の制作でどこまで使えるのかを検証していく予定です。
その前に、こうした互換性の問題を知っておくことには意味があると思います。
新しい機能を試す楽しさと、今ある制作環境を守ること。その両方を大切にしたいですね。
参考資料
- The Firmware Hub|カスタムFirmwareとFlashチップの互換性について
- Felucca GitHub|Issue #320:新しいFlashチップへの対応
- Felucca|リリース一覧・1.8.2 beta
- M-Flasher|GitHub
- The Firmware Hub|FM-1復旧ガイド
- Drey Andersson|M-VAVE FM-1 Custom Firmware
※各Firmwareの対応状況は頻繁に変わります。導入前には最新の公式リリース情報を確認してください。
M-VAVE FM-1 解説シリーズ|全17回
M-VAVE FM-1の基本操作から音作り、DAW連携、シーケンサー、カスタムFirmwareまで、実機での検証を交えながら紹介していきます。
第1回|M-VAVE FM-1解説シリーズ:約1万円の格安FMシンセが届いた〜その魅力と可能性
6オペレーターFM音源の特徴や基本仕様、価格だけでは語れないFM-1の可能性を紹介します。
第2回|FM-1を買ったらまずここまで——音出しからシーケンサーまで
純正V15を使い、音色選択、基本操作、アルペジエーター、シーケンサーを実際に試します。
第3回|FM-1、V16へアップデートすると何が変わるのか
8パート・マルチティンバー化や20音ポリフォニーなど、V16の新機能と変更点を解説します。
第4回|V16をDAWから鳴らす——8パート・マルチティンバー音源として使う
Ableton Liveから各Voiceを個別にコントロールし、外部MIDI音源としての可能性を検証します。
第5回|音作り編——6オペレーターFMを怖がらず触る
Operator、Algorithm、Ratio / Fixed、Envelopeなどを解説。実機を操作しながら音作りの基本を学びます。
第6回|FM-1 V16だけで曲を作る——64ステップ・シーケンサーと8トラックArrangement
内蔵シーケンサーとArrangementを活用し、DAWを使わずに一つの楽曲を組み立てます。
第7回|FM-1は一台で何種類の楽器になる?——カスタムFirmwareの全体像
純正V16、公式FM1 Open、第三者製Firmwareの違いを整理し、それぞれの特徴と可能性を紹介します。
第8回|Firmwareを書き換える前に——導入・バックアップ・復旧の基本
Firmware Hubなどのツール、書き換え手順、互換性、データ保護、トラブル時の復旧方法を解説します。
第9回|Feluccaを使ってみる——FM-1がマルチエンジン音源になる
カスタムFirmware「Felucca」を導入し、基本操作、音源エンジン、音作りとシーケンサーを試します。
第10回|純正V16とFeluccaを比較——どちらが音楽制作に向いている?
音色、操作性、MIDI、シーケンサーなどを比較し、それぞれに適した制作スタイルを考えます。
第11回|SLOOPで曲を作る——FM-1をGrooveboxとして使う
シンセとドラムを組み合わせたパターン制作やライブ操作を通して、SLOOPの実用性を検証します。
第12回|FM-1はドラムマシンにもなる——個性派Firmwareを比較
X0X、FM-1+VA、Jangada、Groove OS、FoMniなど、特徴的なFirmwareを用途別に紹介します。
第13回|M-VAVE公式のFM1 Openとは?——純正V16とは別の進化
公式オープンFirmwareの特徴やWorkbench、サンプル機能、開発環境について解説します。
第14回|FM-1をブラウザーで動かす——fm1-emuの可能性
実機がなくてもFirmwareを体験できるエミュレーターを紹介し、その仕組みと操作性を検証します。
第15回|FM-1のFirmwareをDAWプラグインとして使う
VST3・AU・CLAPなどの対応状況を確認し、Ableton LiveやLogic Proでの活用を試します。
第16回|FM-1をほかの機材と組み合わせる——ハードウェア・iPad連携
OP-1 Field、K.O. II、Grandstage X、iPadなどと組み合わせ、新たな制作スタイルを探ります。
第17回|FM-1シリーズ総まとめ——一台のシンセから音楽制作プラットフォームへ
純正とカスタムFirmwareの使い分け、複数台運用、ソフトウェア化など、FM-1の可能性を総括します。
番外編
番外編:M-VAVE FM-2が開発中——現時点でわかっていること
FM-1の後継機として話題になっているFM-2について、公開情報と今後の可能性を整理します。
番外編|M-VAVE FM-1のFlashチップが変更?——新しい個体で起こるFirmware互換性問題
一部の新しい個体で報告されたFlashチップの変更について、カスタムFirmwareとの互換性問題、Feluccaの対応状況、導入前の注意点を解説します。
番外編|CFWが変える音楽ハードウェアの未来——FM-1からOP-1まで、楽器はどこまで進化できるのか?
カスタムFirmwareによる機能拡張や古い機材の再活用、メーカーとの関係を通して、音楽ハードウェアの新たな可能性と課題を考察します。
※第1〜5回は公開済みです。第6回以降の内容と順番は、Firmwareの開発状況や実機での検証結果によって変更する場合があります。