「動」を際立たせるには「静」を作る――対比から考える作曲・アレンジの方法


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ドラマを見ていると、ある人物を際立たせるために、正反対の性格を持った人物が配置されることがあります。

感情的に反応する人物たちの中に、一人だけ冷静に状況を判断する人物を置く。

すると、その人物自身が特別に「私は合理的な人間です」と説明しなくても、周囲との対比によって合理性が浮かび上がってきます。

これは音楽でもまったく同じです。

速さを表現したいからといって、すべての楽器を速く演奏させる必要はありません。

むしろ、

止まっているものの上に、動いているものを置く。

その方が、「動」は強く感じられることがあります。

これは作曲やアレンジを考えるうえで、とても重要な考え方です。


音楽の印象は「絶対値」ではなく「差」で決まる

例えば16分音符の速いパッセージを書いたとします。

その後ろで、

ドラムも細かく刻み、
ベースも動き、
Padも頻繁にコードチェンジし、
別の楽器も細かなフレーズを演奏している。

これでは、16分音符のパッセージはそれほど「速く」聞こえません。

音楽全体が動いているからです。

ところが背景を、

長い音価のPad、
ゆったりしたベース、
ほとんど動かない和声、

に変えてみる。

その上で一つの楽器だけが細かなパッセージを演奏すると、同じ16分音符でも急に動きが強く感じられます。

つまり、

速いから速く聞こえるのではなく、周囲が静かだから速く聞こえる。

音楽における強調は、必ずしも強調したいもの自体を強くすることではありません。

周囲との差を作ることでも実現できます。


Nirvana――「静」と「動」を時間軸で切り替える

この考え方を非常に分かりやすく使っているのがNirvanaです。

「Smells Like Teen Spirit」を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

ヴァースでは演奏を比較的抑え、コーラスに入るとギターの歪み、ドラム、ボーカルを含めて一気にエネルギーが増します。

Nirvana – Smells Like Teen Spirit(Official Music Video / YouTube)

もちろんコーラスそのものにも力があります。

しかし、もし曲の最初から最後まで同じ音圧、同じ演奏密度だったら、あれほどコーラスは強烈には感じないでしょう。

「動」の前に「静」があるから、爆発したように感じる。

Nirvanaではこの方法が一曲だけの特殊なアイデアではなく、かなり頻繁に現れます。

「Lithium」はさらに分かりやすい例です。

抑制されたセクションと激しく開放されるセクションを何度も往復するため、静と動そのものが曲の感情表現になっています。

Nirvana – Lithium(Official Music Video / YouTube)

Nirvana – Lithium(Spotify)

ここで大事なのは、

「大きな音を出したから迫力が出た」

だけではないことです。

小さな状態をきちんと作ったから、大きな状態が意味を持つ。

これはロックに限らず、あらゆるジャンルで使える考え方です。


パッヘルベル《カノン》――静止した背景の上で動きを作る

もう一つ、今度は少し違った「静と動」の例として、パッヘルベルの《カノン》があります。

Pachelbel: Canon and Gigue in D Major – Canon(Spotify / Academy of St Martin in the Fields)

この曲では低音部の基本的な進行が繰り返され、その上でヴァイオリンの声部が展開していきます。

最初は比較的ゆったりしていた上声部が、次第に細かな音価を含むようになっていく。

しかし下にある土台そのものは大きく変わらない。

そのため、上声部の運動量の変化が非常にはっきり感じられます。

これは現代のアレンジに置き換えるなら、

Padのロングトーンの上に、ピアノやシンセの細かなパッセージを置く

という発想にかなり近いものがあります。

Nirvanaが、

静 → 動

という時間的な対比を使っているとすれば、《カノン》は、

静 + 動

を同時に存在させている。

同じ「対比」でも、使い方が違うわけです。


《ボレロ》は説明するまでもない代表例

固定されたものが存在するからこそ、変化するものが目立つ。

この原理の代表として、ラヴェルの《ボレロ》も挙げられるでしょう。

一定のリズムを維持しながら、音色、編成、音量が変化していく。

あまりにも有名な作品なので詳しい説明は必要ないと思いますが、これも「変化させないものを作ることで、変化を際立たせる」好例です。


「全員を動かす」と、誰も目立たなくなる

アレンジをしていると、ついすべてのパートに何かを演奏させたくなります。

ピアノにも動きを入れる。
ストリングスにも動きを入れる。
ギターにもフレーズを入れる。
ベースにもフィルを入れる。

しかし全員が自己主張を始めると、逆に誰も目立たなくなります。

これはドラマで、登場人物全員が同じように感情的に叫んでいたら、一人ひとりの感情が弱く見えてしまうのと似ています。

音楽でも、

動く人と、動かない人を決める。

ことが重要です。

例えば実際のアレンジなら、次のような方法があります。

  • Padやストリングスをロングトーンにして、その上だけに細かなピアノやシンセのパッセージを置く
  • ベースをシンプルに保ち、上声部だけをシンコペーションさせる
  • Aメロの音数を抑え、サビで初めてフルアレンジにする
  • オスティナートが続く中で、一つの楽器だけ長い旋律を歌わせる
  • 激しいセクションの直前で一度楽器を減らし、次の一拍を大きく感じさせる

ここで面白いのは、最後の例のように、

静の中で動を目立たせる

だけでなく、

動の中に静を置く

こともできる点です。

細かなオスティナートが延々と続いているところに、チェロが一つの長い音を伸ばす。

その場合、今度はロングトーンの方が異物として前に出てきます。

つまり「静」と「動」のどちらが主役なのかは決まっていません。

重要なのは、

周囲と違うこと。

です。


サビを強くしたいなら、サビだけを強くしない

これはポップスのアレンジでも非常に実践的です。

サビをもっと盛り上げたい。

そう思ったとき、多くの場合まず、

「ストリングスを足そう」
「ギターを重ねよう」
「シンバルを増やそう」

と考えます。

もちろん、それも一つの方法です。

しかし別の方法があります。

Aメロをもっと小さくする。

サビを+3にするのではなく、Aメロを-3にする。

結果として生じる差は同じでも、後者の方が自然に聞こえることがあります。

これはミックスでも同じです。

何かを明るくしたいから、その楽器の高域を上げる。

それだけではなく、周囲の楽器を少し暗くするという方法もある。

ベースを目立たせたいから音量を上げるのではなく、他の楽器の低域を整理する。

結局、

目立たせたいものを直接強くする方法と、周囲との差を広げる方法がある。

そして後者の方が、音楽的には美しく成立することが少なくありません。


対比は「差を大きくする技術」

こう考えると、「静と動」というのは単に音量の大小を指す言葉ではありません。

音価にも静と動があります。

リズムにもあります。

音域にもあります。

音色にもあります。

密度にもあります。

さらに、

単純と複雑、
安定と不安定、
反復と変化、

といった関係も、すべて同じ考え方で扱えます。

そしてここには、作曲やアレンジを考えるうえで一つの重要な原則があります。

強調とは、足し算だけではない。

何かを目立たせたいとき、そこへさらに何かを加える前に、

その周囲をどうするか

を考えてみる。

速いフレーズを目立たせたいなら、その背景を止める。

大きなサビを作りたいなら、その前を静かにする。

長い音を印象的にしたいなら、その周囲を細かく動かす。

音楽は、一つひとつの音だけで意味が決まるわけではありません。

隣に何が置かれているかによって、その音の意味は変わります。

「動」を描きたいなら、「動」だけを考えるのではなく、その隣に置く「静」を考える。

それだけで、アレンジの見え方はかなり変わってくるはずです。

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