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Black Fridayの季節になると、音楽制作ソフトウェアのセール情報が一気に増えます。
50%OFF。
期間限定。
クロスグレード。
ポイント還元。
バンドル特価。
DTMをやっていると、普段なら気にも留めなかった製品まで突然魅力的に見えてきます。
私自身、これまでたくさんの音源やプラグインを購入してきました。
もちろん今でも頻繁に使っているものがあります。
しかしその一方で、
「安かったから買った。でも結局ほとんど使っていない。」
というものもあります。
Black Fridayは楽しい時期です。
でも同時に、私は一年の中でも特に判断を間違えやすい時期だと思っています。
選択肢が増えるほど、人は選べなくなる
一見すると、選択肢は多い方が良さそうです。
10種類より100種類。
100種類より1,000種類。
たくさんの製品を比較できれば、その中から自分にとって最高のものを選べそうな気がします。
しかし実際には、選択肢が増えすぎることで判断が難しくなることがあります。
心理学では、選択肢が多すぎることで決定そのものが難しくなったり、選んだ後の満足度が下がったりする現象が研究されています。
Black Fridayは、まさにそれが起こりやすい状況です。
普段なら数製品しか見ていなかったところへ、
「これも半額」
「こっちは今日まで」
「これは過去最安値」
「こちらはアップグレードするとさらに安い」
と、一気に大量の情報が入ってきます。
最初はワクワクします。
しかし、そのワクワクが続くうちに、
「自分には何が必要なのか」
という一番大切な基準が薄れてしまう。
そして気付けば、
「この製品が必要なのか」ではなく、「この価格なら買ってもいいのではないか」
と考え始めます。
私はここがBlack Fridayの一番危険なところだと思っています。
「欲しいものが安くなった」と「安いから欲しくなった」は違う
この二つは似ていますが、かなり違います。
以前から必要だと思っていた製品がBlack Fridayで安くなった。
これは非常に分かりやすい買い時です。
しかし、
Black Fridayのページを見て初めてその製品を知り、
50%OFFという数字を見て、
レビュー動画を見て、
だんだん欲しくなってきた。
これは少し慎重になった方がいい。
なぜなら、この場合は、
「欲しい → 安い」
ではなく、
「安い → 欲しい」
という順番になっているからです。
私自身、過去に何度もこれを経験しています。
買った直後は楽しい。
Presetを鳴らして、
「おお、すごい!」
となる。
ところが数週間後、制作をしているときには以前から使っていた音源を立ち上げている。
新しく買った製品は、そのままSSDの中に眠っている。
DTMソフトウェアは物理的に場所を取らないので、この失敗が見えにくいのも厄介です。
今回、Synchron Power Drumsを買うまでかなり悩んだ
今回、VSLのSynchron Power Drumsがセールになっていました。
価格だけを見れば、かなり魅力的でした。
さらに私はVienna Pointsも大量に持っています。
つまり、
「安いから買う」
という判断をするのであれば、ほとんど迷う必要はありませんでした。
しかし今回は、そこで一度止まりました。
そもそも私は、ドラム音源やパーカッション音源に困っていません。
シネマティックPercussion。
オーケストラPercussion。
通常のドラムセット。
巨大な打撃音。
すでにかなりの選択肢があります。
それなのに、なぜさらにPower Drumsが必要なのか。
ここを説明できないまま買えば、過去と同じことになります。
まず「手持ちで代用できないか」を考えた
今回かなり長く考えたのが、この部分です。
Power Drumsの特徴を見て、
「これなら手持ちの音源を組み合わせれば近いことができるのでは?」
と考えました。
PercussionとAmbientを組み合わせる。
通常のドラムにRoomを足す。
複数の打楽器を左右に配置する。
手持ちのDamage 2やAbbey Road Orchestraなどを使えば、かなり近いところまで作れます。
ここで、
「だったら買わなくてもいいのでは?」
という結論にも一度なりました。
この過程は、今考えると非常に重要でした。
セール品を見ると、つい
「何ができる製品なのか」
ばかり調べてしまいます。
でも本当は、
「それは今持っているものでできないのか」
を先に考えた方がいい。
新製品のメリットを探すだけでは、買う理由はいくらでも見つかってしまうからです。
それでも残った違いは何か
それでもPower Drumsについて考え続けた結果、一つだけ手持ちとは少し違うところが残りました。
それが、
空間を演奏する
という考え方でした。
Power Drumsという名前からは、どうしても巨大でダイナミックなドラムを想像します。
しかし私が興味を持ったのは、むしろ逆でした。
例えばフルコンサートグランドピアノ。
フォルティッシモで大量の音を弾かなくても、ピアニシモで一音鳴らすだけで、
ハンマーが弦を叩き、
楽器全体が共鳴し、
その音がホールへ広がり、
やがて消えていく。
その「消えていく時間」まで音楽になります。
Power Drumsでも、
Tomを一発だけ鳴らす。
数秒間何も鳴らさない。
別の場所からもう一発。
その後ろに残る空間を聴く。
そういう使い方ができるのではないか。
ここで初めて、
「普通のドラム音源をもう一本増やす」
という話ではなくなりました。
「新しい音」が増えるのか、「新しい作り方」が増えるのか
最終的に、今回一番大きな判断基準になったのがこれでした。
新しいプラグインを買うと、
Presetが増えます。
Kickが増えます。
Snareが増えます。
Synth Padが増えます。
もちろん、それ自体にも価値はあります。
しかし似たような音をすでに大量に持っている場合、
音色が増えるだけでは制作方法はほとんど変わりません。
一方、
これまで考えなかった作り方ができる。
音楽の構成そのものが変わる。
新しい発想が生まれる。
そういう製品なら、多少使用頻度が低くても意味があります。
今回のPower Drumsについて私は、
通常のドラム音源ではなく、空間を構成するための特殊な道具
と考えることで、ようやく役割を見つけることができました。
ストリングスでいえば、通常のLegatoやStaccatoではなく、HarmonicsやCol legnoなどの特殊奏法に近い感覚です。
毎回使う必要はない。
しかし必要な場面では、普通の音源とは違う仕事をしてくれる。
そこまで用途を絞れたことで、購入することにしました。
買う前に「実際に使う場面」を想像する
今回もう一つ役に立ったのが、
実際の曲で使う場面を想像する
ことでした。
「いつか使えそう」
では少し弱い。
もっと具体的に、
イントロの静かな部分。
場面転換。
遠くから聞こえる打楽器。
音数を増やさず、空間だけを広げたい場面。
そういう具体的なシーンがいくつか想像できるか。
ここまで考えると、
「面白そうな音源」
と
「自分が使う音源」
の違いがかなり見えてきます。
これはPower Drumsに限らず、Black Fridayで何かを買うときにはかなり有効だと思います。
Black Fridayでは「買わない理由」も探した方がいい
通常の商品レビューでは、
「この製品の良いところ」
を探します。
しかし購入前には、逆のこともやった方がいい。
買わなくてもいい理由を探す。
手持ちで代用できないか。
使用頻度は本当に高いか。
似た製品をすでに持っていないか。
CPUやストレージに負担はないか。
自分の制作スタイルに本当に合っているか。
そして、
「セールでなかったとしても興味を持つ製品なのか」
という問いも有効です。
それでも欲しい理由が残るなら、かなり納得して購入できます。
逆に、調べれば調べるほど
「別に今はいらないかもしれない」
となったなら、それも立派な結論です。
Black Fridayは、何かを買わなければ損をするイベントではありません。
必要でないものを買わなかったことも、立派な節約です。
タイムリミットが判断を狂わせる
Black Fridayには、もう一つ強力な仕掛けがあります。
期限です。
「あと24時間」
「本日終了」
「過去最安値」
こう表示されると、急に決断しなければならないような気持ちになります。
しかし、本当に必要なものかどうかを考える時間まで削ってしまったら、本末転倒です。
今回私はセール終了直前までPower Drumsについて考えました。
製品の特徴。
手持ちとの重複。
代用方法。
実際の用途。
操作性。
負荷。
将来的な使い方。
かなり細かく確認しました。
そこまでしてようやく、
「安いから買う」のではなく、「この使い方を試したいから買う」
というところまで行き着きました。
ここまで来れば、たとえ将来的に毎日使う音源にならなかったとしても、少なくとも購入理由は明確です。
Black Fridayはワクワクする。だからこそ一度止まる
Black Fridayは楽しいイベントです。
普段手の届かなかった製品が安くなります。
新しい制作環境を作るチャンスでもあります。
だから私は、Black Fridayそのものを否定したいわけではありません。
むしろ楽しみたい。
ただ、選択肢が一気に増え、値引き率や期限が並ぶ時期だからこそ、
一度止まって考える時間
が必要なのだと思います。
「安いか?」
ではなく、
「必要か?」
「すごい音か?」
ではなく、
「自分はこれで何をするのか?」
「持っていないか?」
ではなく、
「今あるもので本当にできないのか?」
この順番で考えるだけでも、かなり違います。
今回の購入で一番大きかったもの
結局、今回Power Drumsを購入して一番大きかったのは、割引率ではありませんでした。
購入するまで考え続けたことで、
自分が音源に何を求めているのかが明確になったこと
です。
私は単に新しいドラム音が欲しかったわけではありません。
静寂。
余白。
距離。
奥行き。
そして空間そのものを音楽の一部として扱いたかった。
そこまで言葉にできたところで、ようやく購入する意味が生まれました。
Black Fridayでは、つい
「何を買うか」
ばかり考えてしまいます。
でも本当は、
「なぜ買うのか」
を考える方が大切なのかもしれません。
割引率より、購入理由。
製品数より、使い道。
そして、
「何%OFFなのか」ではなく、「これを導入すると、自分は今までと違う何ができるのか」
今回のBlack Fridayでは、この基準をできるだけ忘れないようにしたいと思います。