PolySWAM正式版はなぜ“便利だったBeta版”を捨てたのか――使いやすさより理念を選んだAudio Modelingの決断


PayPal で支援する

musicfreaks.jpの活動をご支援頂けましたら幸いです。ひとつひとつのご支援が大きな励みとなります。どうか、よろしくお願いいたします。


Amzonタイムセール☆今すぐチェック!

☆------------------------------------------------☆

 

Audio Modelingの「PolySWAM」が正式版になりました。

私はBeta版の段階から触っていましたが、正式版を起動して最初に感じたのは、

「ずいぶん性格が変わったな」

ということでした。

Beta版のPolySWAMは、かなり直感的でした。

プリセットを選び、鍵盤でコードを弾けば、SWAMらしいリアルな音色がポリフォニックで鳴る。

Kontaktなどのソフトウェア音源に慣れている人なら、それほど構造を理解していなくても、すぐに遊ぶことができたと思います。

ちょっとしたストリングスのフレーズを入れる。

管楽器を重ねてコードを鳴らす。

思いついたアレンジをその場で確認する。

そういう用途では、とても使いやすいものでした。

ただ、当時から少しだけ違和感もありました。

音はリアルなのに、演奏の感覚はどこかシンセサイザー的だったのです。


「簡単なポリフォニックSWAM」ではなくなった

2026年10月、PolySWAMは正式版1.0としてリリースされました。

Audio Modeling自身も、正式版PolySWAMについて、既存のSWAM Instrumentへ単純にVoiceを追加したものではなく、独自のPerformance Logic、Intelligent Voice Allocation、Ensemble Management、Acoustic Environmentを備えた別のInstrumentとして説明しています。

実際に触ってみると、その意味がよく分かります。

現在のPolySWAMで重要なのは、

「何音鳴らせるか」ではありません。

それよりも、

「入力された音を、誰が演奏するのか」

です。

たとえばコードを弾いたとします。

普通のポリフォニック音源なら、一つの音色が複数Voiceを発音します。

しかしPolySWAMでは、その音を内部の複数のSWAM Instrumentへ割り振り、どの奏者がどのVoiceを担当するのかを決定します。

現在用意されているMulti Polyでは、単音フレーズではLegatoを維持するために適切なInstrumentを追従させ、コードになると複数のInstrumentへ音を配分しながらVoice Leadingを管理します。

Complete Voicesは、空いている奏者まで利用して厚いEnsembleを作ります。

Multi Monoでは、複数のInstrumentをユニゾンで鳴らします。

つまりこれは、

「SWAMをポリフォニックにしたもの」

というより、

「複数のSWAM奏者をリアルタイムで統率するシステム」

と考えた方が分かりやすいのです。

正式版の評価をする前に、まずPreset Collectionまで最新の状態にしておくことをおすすめします。


正式版を使う前に、Preset Collectionの更新も忘れずに

ここで、Beta版から正式版PolySWAMへ移行する際に、ひとつ重要な注意点があります。

PolySWAM本体を正式版へアップデートしただけでは、新しいプリセットがすべて反映されない場合があります。

私も正式版を起動した直後は、かなりシンプルなプリセットしか表示されておらず、

「正式版になって、プリセットまでずいぶん整理されたのかな?」

と思いました。

しかしBeta版から移行した場合は、Audio Modeling Software CenterからPreset Collectionを改めてReinstallする必要があります。

個別に更新する場合は、

PolySWAM → Manage Collections → 各CollectionをReinstall

します。

また、PolySWAM全体をまとめて入れ直す場合は、

PolySWAM → Reinstall

を実行します。

これを行うことで、正式版用のPreset Collectionが反映されます。

正式版ではOrchestral Strings、Orchestral Brass、Orchestral Woodwinds、Orchestral Leads、Chamber Ensembles、Modern & Groove、Cinematic & Texture、Instrument Autodivisiといった複数のCollectionが用意されています。

そのため、Beta版からアップデートして、

「プリセットが少ない」
「正式版なのにずいぶんシンプルになった」

と感じた方は、そこで判断してしまう前に、まずSoftware CenterからCollectionのReinstallを確認してみてください。

この手順を行わないままでは、正式版PolySWAMの本来のプリセット構成を十分に確認できない可能性があります。

今回のようにBeta版と正式版を比較する場合には、かなり重要なポイントです。


正直、Beta版の方がすぐ遊べた

ここは誤解のないように書いておきたいところです。

私自身、最初に触ったときの分かりやすさだけでいえば、Beta版の方が上でした。

起動する。

プリセットを選ぶ。

鍵盤を弾く。

「あ、これは面白い」

となる。

非常に早い。

一方、正式版はそうはいきません。

RANGESを見て、

どのSectionがどの音域を担当しているのか。

どのAlgorithmが選択されているのか。

どの音がどのInstrumentへ割り当てられているのか。

Voiceが次のコードへどう移動するのか。

そういった構造を理解していかないと、PolySWAMが「なぜそのように鳴ったのか」が分かりません。

RANGES画面では、演奏中に各InstrumentがどのNoteを担当しているかまで視覚的に確認できます。これは現在のPolySWAMが単なるポリフォニック音源ではなく、Ensembleの構造そのものを扱う製品であることをよく表しています。

つまり、

Beta版はInstrumentとして触れば楽しめた。

対して正式版は、

Systemを理解してからInstrumentとして扱う必要がある。

かなり大きな違いです。


なぜBeta版の使いやすさも残さなかったのか

ここで一つ疑問が出てきます。

マーケティングだけを考えるなら、

「Easy Mode」と「Advanced Mode」

のような形で両方を残すこともできたのではないでしょうか。

Beta版のように簡単にコードを鳴らしたい人は旧方式を使う。

本格的なDivisiやVoice Allocationを使いたい人は正式版の方式を使う。

その方が幅広いユーザーを獲得できそうに見えます。

私も最初はそう考えました。

しかし、実際に正式版を触っているうちに、別の理由が見えてきました。

もし便利な旧方式が残っていたら、多くのユーザーがそちらしか使わなくなるのではないか。

ということです。


「便利さ」が製品の核を隠してしまうことがある

これはソフトウェアではよく起こります。

非常に深い機能を持っているにもかかわらず、多くのユーザーはプリセットを選んで終わる。

たとえばPianoteqにも、物理モデリングだからこそ可能な非常に深いInstrument設計・調整機能があります。

しかしPianoteqを使っているすべての人が、その領域まで踏み込んでいるわけではありません。

プリセットを選び、好きなPianoを弾く。

それだけでも十分素晴らしい音が出るからです。

これは製品として決して悪いことではありません。

むしろ非常に優れた設計です。

しかし、PolySWAMでは事情が違ったのかもしれません。

仮にBeta版的な簡単なモードが残っていたら、

プリセットを選ぶ。

コードを弾く。

リアルな音が出る。

「これで十分」

となる可能性があります。

すると、

Voice Allocation。

Divisi。

Voice Leading。

奏者ごとのRange。

Legatoの連続性。

Ensembleそのものの構造。

こうしたPolySWAMの本当の面白さまで到達しない。

つまり、

便利な機能が、製品の一番重要な機能を隠してしまう。

そんな逆転現象が起こります。


「SWAMをコードで弾ける音源」になってしまう危険

もしその状態が続けば、PolySWAMという製品に対する認識そのものが、

「SWAMをポリフォニックで鳴らせる便利な音源」

として定着してしまったかもしれません。

しかし、それではAudio Modelingが長年SWAMで作ってきたものから少し外れてしまいます。

SWAMの魅力は、単に「生楽器の音に似ている」ことではありません。

Physical Modelingによって、演奏者の入力に対して楽器がリアルタイムに反応する。

弓圧。

息。

Dynamics。

Attack。

Legato。

Portamento。

そうした演奏行為そのものを音へ変換することがSWAMの中心にあります。

PolySWAMでもExpressionのContinuous Controllerは依然として重要で、Audio Modelingは鍵盤Velocityだけではなく、息やBow Pressureに相当する連続的なExpression情報が必要だと説明しています。

そう考えると、

「一つのSWAMを単純に複音化する」

よりも、

「複数のSWAM奏者を演奏する」

方向へ進む方が、SWAMという製品の思想には自然です。


便利さより「何者であるか」を選んだ

もちろん、これはメーカーから「Beta版を残さなかった理由」として公式に説明されたものではありません。

ここからは、Beta版と正式版を実際に使った私自身の考察です。

しかしAudio Modelingが正式版PolySWAMについて、

単純なVoice追加ではなく、

Performance Logic、

Voice Allocation、

Ensemble Management、

Acoustic Environmentまで含めた独立したInstrumentだと明確に位置付けていることは重要です。

さらにPresetについても、一般的なSample Libraryのように大量のPatchを次々Previewする思想ではなく、一つのPresetそのものを「living, complete instrument」として扱う設計であることを説明しています。

ここにはかなり一貫した考え方を感じます。

使いやすい機能を全部残すことより、「PolySWAMとは何なのか」を明確にする。

そういう判断だったのではないでしょうか。


ビジネスだけを考えれば、難しい決断だったはず

個人的には、これは英断だったと思っています。

ただし、利益を追求するという意味では簡単な判断ではなかったでしょう。

Beta版の方が初見では分かりやすい。

ソフトウェア音源に慣れている人にも説明しやすい。

「SWAMの音でコードが弾けます」

という方が圧倒的に売りやすい。

正式版は逆です。

ある程度マニュアルを読み、構造を理解しないと、本当の面白さが分かりません。

当然、間口は狭くなります。

しかし、その代わりに、

「この製品でなければできないこと」

が明確になりました。

誰にでも使える製品ではなくなる代わりに、必要とする人にとっては代替しにくい製品になる。

これは短期的な販売数とは別の、ブランドというものの強さにつながります。


「何でもできる」は、必ずしも強さではない

ここで私は、音楽制作についても同じことを考えました。

制作を続けていると、できることは増えていきます。

楽器も増える。

音源も増える。

技術も増える。

AIも使える。

選択肢はいくらでもあります。

すると、つい、

できることは全部使った方が良い

と思ってしまいます。

しかし、本当に作品の輪郭を作るのは、

「何ができるか」

だけではないのかもしれません。

むしろ、

「何をしないのか」

を決めたとき、その作品の中心線が見えてくることがあります。


核を守るために、あえて捨てる

今回のPolySWAMから私が最も強く感じたのは、この部分です。

Beta版の便利さを残すことはできたかもしれない。

簡単なモードと高度なモードを共存させることも、マーケティング上は魅力的だったでしょう。

しかし、それをするとPolySWAMという製品の核が見えにくくなる。

だから、あえて一本に絞った。

少なくとも私は、そのように感じています。

これは、

「何を追加するか」ではなく、「何を残さないか」に理念が表れる

という、とても面白い例です。


一定数に深く届くということ

もちろん、この方向性を好まない人もいるでしょう。

Beta版の直感性が好きだった人からすれば、

「以前の方が使いやすかった」

という評価になるのも当然です。

しかし、すべての人に好かれようとしないからこそ、逆に強く共感するユーザーも生まれます。

「この会社は何を大事にしているのか」

が分かるからです。

製品の機能だけではなく、その背後にある判断基準まで理解できるようになると、ユーザーとメーカーの関係は少し変わります。

次の製品が出たときにも、

「Audio Modelingなら、こう考えるだろう」

という信頼が生まれる。

これは単なる購入者とメーカーという関係よりも、かなり強いものです。


PolySWAM正式版から、自分自身の制作を考える

今回のPolySWAM正式版は、私自身の制作姿勢についても考えるきっかけになりました。

作品を分かりやすくすること。

多くの人に届けること。

新しい技術を取り入れること。

もちろん、どれも大切です。

しかし、それ以上に、

自分が何を大切にして作品を作っているのか。

そこが曖昧になってしまえば、できることが増えるほど作品の輪郭が薄くなってしまうこともあります。

変えてよいものと、

変えてはいけないもの。

増やしてよいものと、

あえて捨てるもの。

その中心に一本の線がある。

PolySWAMの正式版を触りながら、私はそんなことを考えました。

便利だったBeta版を残さなかったことが、本当にAudio Modelingの意図した戦略だったのかは分かりません。

しかし少なくとも正式版PolySWAMからは、

「私たちは、こういう製品を作る」

という強い意志を感じます。

そして私は、その姿勢にかなり好感を持っています。

便利さを増やすことだけが進化ではない。

時には、

核を守るために何かを捨てることも、進化なのだと思います。

PolySWAMをもう少し見てみたい方へ

最後に、PolySWAMの実際の演奏やプリセットを確認できる動画をいくつか紹介しておきます。

まずは外部制作者によるPolySWAMの紹介動画。メーカー公式とは少し違った視点から、実際の使用感を確認できます。

続いてAudio Modeling公式から、Orchestral StringsとOrchestral Brassのプリセットデモです。

同じPolySWAMでも、弦と金管ではアンサンブルの反応や音の動き方がかなり異なります。「一つの音色をポリフォニックで鳴らす」のではなく、「複数の奏者をひとつのアンサンブルとして扱う」というPolySWAMの特徴を、実際の音で確認する参考になると思います。

PolySWAM — ORCHESTRAL STRINGS PRESETS[Audio Modeling公式]

Audio Modeling公式による、オーケストラ・ストリングス系プリセットのデモです。複数の弦楽器が一つのアンサンブルとして動く様子や、PolySWAMらしい滑らかな声部のつながりを確認できます。弦楽器でのPolySWAMの特徴を知るには分かりやすい動画です。

PolySWAM — ORCHESTRAL BRASS PRESETS[Audio Modeling公式]

こちらもAudio Modeling公式で、オーケストラ・ブラス系プリセットを紹介するデモです。Stringsとは異なる、金管楽器ならではのダイナミクスや厚み、複数奏者によるアンサンブル感を確認できます。PolySWAMが単なる「ポリフォニック音源」ではないことが音から分かりやすい動画です。

PolySWAM — ORCHESTRAL WOODWINDS PRESETS[Audio Modeling公式]

Audio Modeling公式による、オーケストラ・ウッドウインズ系プリセットのデモです。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットなど、木管楽器ならではの軽やかな動きや息遣い、複数奏者が自然に受け渡していくようなアンサンブル感を確認できます。

StringsやBrassとはまた違う、PolySWAMのVoice Allocationや声部のつながりの分かりやすさを感じられる動画です。

*その他のリンク

さらに公式動画ではありませんが、このソフトウェアの解説をしているチャンネルです。

外部制作者によるPolySWAMの紹介動画です。公式デモとは少し違った視点から、実際にPolySWAMを操作しながら、どのような音や演奏ができるのかを確認できます。製品の全体像をつかみたい方に向いています。

Introducing PolySwam Instrument by Audio Modeling
https://youtu.be/Vrx5NFWjFzc

Instrument Xの今だからこそ、PolySWAMを使ってみる

広告
最新情報をチェックしよう!