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- 1 Reverbをかけていないのに、すでに響いている
- 2 そもそも音の「空間」とは何なのか?
- 3 生楽器を録音した時点で、空間は音に含まれている
- 4 サンプル音源は「その場所で録音された音」を再生している
- 5 Native Instrumentsのような比較的Dryな音源はどう考える?
- 6 SWAMは「演奏音そのもの」から空間を構築できる
- 7 「元から持っている空間」と「後から加えた空間」を整理する
- 8 では、異なる音源を混ぜると何が起こるのか?
- 9 Reverbをかける前に確認したい5つのポイント
- 10 Dryな音が優れているわけでも、Wetな音が優れているわけでもない
- 11 まとめ|空間設計は、Reverbを選ぶ前から始まっている
- 12 空間設計研究|シリーズ記事一覧
Reverbをかけていないのに、すでに響いている
DTMでオーケストラ音源を立ち上げたとき、まだReverbをかけていないのに、美しいホールの響きが聞こえてくることがあります。
一方、別の音源に切り替えると、驚くほど音が近く、まるで耳元で楽器を演奏しているように感じることもあります。
同じバイオリンの音源なのに、なぜこれほど違うのでしょうか。
その理由の一つが、音源が最初から持っている「空間」の違いです。
一般的にDTMでは、Reverbはミックスの段階で加えるエフェクトとして説明されることが多いと思います。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし実際には、Reverb Plug-inを使う前から、音源の中に部屋の響きやマイクとの距離など、さまざまな空間情報が含まれている場合があります。
そして、この違いを理解しているかどうかで、ミックスの考え方は大きく変わります。
今回から始める「空間設計研究」シリーズでは、単にReverb Plug-inの種類や使い方を紹介するのではなく、音源そのものが持っている空間と、後から加える空間を分けて考えるところから始めたいと思います。
そもそも音の「空間」とは何なのか?
例えば、部屋の中でアコースティックギターを弾いているとします。
ギターから発せられた音は、直接耳に届くだけではありません。
壁や床、天井などに反射し、わずかに遅れて耳に届く音もあります。
さらに、それらの反射が複雑に重なり合うことで、部屋全体の響きが生まれます。
これを大きく分けると、次の3つになります。
① Direct Sound(直接音)
楽器からマイクや耳へ、直接届く音です。
楽器の輪郭やアタック、音色の明瞭さを判断するうえで重要な成分です。
② Early Reflections(初期反射音)
壁や床、天井などで反射し、直接音より少し遅れて届く音です。
部屋の大きさや形状、音源との距離を感じ取る手掛かりになります。
③ Late Reverberation(後期残響)
多数の反射音が重なり合い、個々の反射を区別しにくくなった響きです。
音が消えていく過程や、空間全体に広がる印象を作ります。
私たちが普段「部屋の響き」と呼んでいるものには、こうした成分が複雑に含まれています。
ここで重要なのは、直接音と反射音は、必ずしも別々に聞こえるわけではないということです。
例えば、小さな部屋で録音したギターは、Reverbがかかっていないように聞こえても、壁からの反射音がアタックや音色に影響している可能性があります。
つまり、「残響が聞こえないこと」と「空間情報が含まれていないこと」は、同じ意味ではありません。
これは今回の記事で最初に押さえておきたいポイントです。
生楽器を録音した時点で、空間は音に含まれている
実際の生楽器録音について考えてみましょう。
例えば、自宅でアコースティックギターを録音する場合です。
マイクをギターの近くに置けば、直接音の割合が大きくなり、弦のアタックや細かなニュアンスが明瞭に聞こえやすくなります。
反対にマイクを少し離すと、楽器全体から放射される音に加え、部屋の反射音も相対的に拾いやすくなります。
結果として、同じギターでも、異なる距離感や音色になります。
ただし、マイクを近づければ必ず完全なDryサウンドになるわけではありません。
近接録音でも、部屋の反射はある程度含まれています。また、マイクの指向性や近接効果、設置する角度によっても音色は変化します。
ここで少し面白いのは、マイクの位置を変更する行為そのものが、すでに空間設計になっているということです。
例えば、
- ギターの近くで録音する
- 1メートルほど離して録音する
- ステレオマイクで部屋ごと録音する
これらは単なる録音方法の違いではありません。
演奏者とマイク、そして部屋との関係を変えているのです。
そして録音された後では、直接音と反射音を完全に分離することは一般に困難です。
つまり、生楽器録音における空間設計は、ミックスよりも前、マイクを設置する段階から始まっているわけです。
サンプル音源は「その場所で録音された音」を再生している
ここで、Spitfire AudioやVienna Symphonic Library(VSL)などのサンプル音源を考えてみます。
サンプル音源は、実際に演奏された音を録音し、そのデータを再生することで楽器の音を作っています。
したがって、録音時に含まれていた空間情報も、基本的にはサンプルの一部として保存されています。
例えば、広いホールで録音されたバイオリンの音には、そのホール特有の響きが含まれている場合があります。
そして、そのサンプルを自宅のDAWで再生しても、録音された空間の特徴は残ります。
この点が、物理モデリング音源と大きく異なるところです。
Spitfire Audioの場合
Spitfire Symphony Orchestraなどでは、複数のマイクポジションが用意されています。
代表的なのが次の4種類です。
- Close:楽器に近いマイク。細かなニュアンスや直接音を捉えやすい
- Tree:オーケストラ全体を捉えるメインマイク。楽器とホールの響きのバランスが特徴
- Ambient:離れた場所からホールの響きを豊かに収録するマイク
- Outrigger:メインマイクの左右方向に配置され、音場の広がりを補うマイク
これらは、単に音色を変えるEQプリセットではありません。
実際に異なる位置で収録された音を切り替えたり、混ぜ合わせたりする仕組みです。
例えば、Closeを中心にすれば、楽器の輪郭が明瞭になります。
Treeを中心にすると、演奏とホールの響きを一体として感じやすくなります。
Ambientを加えれば、さらに奥行きや空間の広がりを表現できます。
ここで重要なのは、マイクポジションを変更すること自体が、空間の印象を変えているという点です。
Reverb Plug-inを使う前から、すでに空間設計が始まっています。
VSLの場合
VSLのSynchronシリーズも、録音された空間を扱うという点では共通しています。
例えばSynchron Pianosには、Close、Mid、Main/Room、Surroundなど、複数のマイクポジションが用意されている製品があります。
Closeではピアノの細かな音を捉え、Main/Roomではステージ全体の音響をより豊かに含むようになります。
特にピアノの場合、マイク位置による違いは残響だけではありません。
ハンマーのアタック、弦の響き、楽器全体のまとまりなども変化します。
つまり、マイクを遠ざけることは、単にReverbの量を増やすこととは異なります。
録音された音そのものの性格が変わるのです。
なお、SpitfireやVSLのすべての音源が同じ収録方式というわけではありません。実際のマイク構成や収録環境は製品ごとに異なります。
Native Instrumentsのような比較的Dryな音源はどう考える?
ここで、もう一つのタイプのサンプル音源について考えてみましょう。
例えば、Native InstrumentsのSESSION STRINGS PRO 2です。
この音源は、比較的Dryで親密な響きのサンプルを特徴としています。
つまり、サンプル音源であっても、必ずしも大きなホールの響きが収録されているとは限りません。
小さなスタジオで近接録音された音源なら、後から自由にReverbを加えやすい場合もあります。
このことからわかるのは、サンプル音源だからWet、物理モデリング音源だからDryという単純な分類はできないということです。
また、Kontakt音源などでは、音源内部にReverbが組み込まれていることがあります。
この場合、ReverbをOFFにすることで取り除けるのは、基本的にそのエフェクトが加えていた成分です。
元のサンプルに収録されている部屋の響きまで、同時に消えるわけではありません。
これは意外と見落とされやすいポイントです。
ReverbをOFFにしたからといって、必ずしも完全なDryサウンドになるとは限らないのです。
SWAMは「演奏音そのもの」から空間を構築できる
ここまで紹介してきたサンプル音源とは、根本的に発音方式が異なるのがAudio ModelingのSWAMです。
SWAMは、実際の楽器が音を発する仕組みを数学的にモデル化した、物理モデリング音源です。
例えば、バイオリンであれば弓と弦の相互作用などを計算し、演奏に応じた音を生成します。
つまり、実際のホールで演奏した音を録音して再生しているわけではありません。
このため、SWAMの基本となる発音エンジンは、録音されたホールの響きを前提としない、比較的Dryな音を生成できます。
ただし、ここは現在のSWAMについて正確に区別しておく必要があります。
SWAMは、現在ではAmbienteを搭載している
現在のSWAM Solo Instrumentsには、AmbienteというRoom Simulatorが搭載されています。
これは単にReverbを加えるだけの機能ではありません。
仮想空間の中に楽器を配置し、部屋の大きさや材質、マイク距離などを考慮して空間をシミュレーションする仕組みです。
したがって、SWAMの発音エンジンそのものがDryに近い音を生成していても、実際にDAWへ出力される音には、すでにAmbienteによる空間処理が加わっている場合があります。
ここには、非常に重要な違いがあります。
Spitfireなどでは実際の部屋で録音された空間がサンプルに含まれ、SWAMでは生成した楽器音に仮想的な空間を組み合わせられる。
どちらも結果として自然な空間を表現できますが、その空間を作っている仕組みが異なるのです。
そしてSWAMでは、元の楽器音と空間処理の関係を、録音済みサンプルとは異なる自由度で設計できます。
なお、Audio ModelingのPolySWAMなどについては、製品ごとの空間処理方式を個別に確認する必要があります。
このシリーズでは、後の回でSWAMとAmbienteの関係をさらに詳しく扱う予定です。
「元から持っている空間」と「後から加えた空間」を整理する
ここまでの話を整理してみましょう。
音源から聞こえる空間は、大きく3つに分類できます。
| 空間の種類 | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 録音された空間 | 生楽器録音、Spitfire、VSL | 録音時の空間が音に含まれている |
| 音源内部で生成した空間 | SWAM Ambiente、音源内蔵Reverb | 音源の出力前に空間処理を加えている |
| DAWで後から加える空間 | 外部Reverb、Room Simulator | ミックス段階で空間を追加・調整できる |
この3つは、最終的な音を聞いただけでは必ずしも簡単に区別できません。
しかし、ミックスを考えるときには、それぞれを分けて理解することが重要です。
例えば、録音されたホールの響きが豊かに含まれているストリングスへ、さらに長いHall Reverbを加えれば、空間が過剰になる場合があります。
一方、比較的DryなSWAMのストリングスであれば、Room Simulatorを使って演奏位置や距離感から設計することもできます。
また、生楽器録音では、すでに含まれている部屋の反射を考慮して、追加するReverbを選ぶ必要があります。
同じReverb設定が、すべての音源に対して同じ効果を生むわけではないのです。
では、異なる音源を混ぜると何が起こるのか?
ここからは、実際の音楽制作で考えてみます。
例えば、次の3種類の楽器を使っているとします。
- 自宅で録音したアコースティックギター
- SWAMで生成したチェロ
- Spitfireのストリングス
この3つを同時に鳴らす場合です。
まず、生ギターには録音した部屋の響きが含まれています。
SWAMのチェロには、Ambienteの設定に応じた空間が加わっているかもしれません。
そしてSpitfireのストリングスには、収録されたホールの空間が含まれています。
つまり、DAW上では3つの楽器が同時に演奏していても、音響的にはそれぞれが異なる場所に存在している可能性があります。
ここで、3つの楽器を同じHall Reverbへ送ったとしましょう。
すると、たしかに共通の残響が加わります。
しかし、それだけで元々の空間の違いが消えるわけではありません。
生ギターの部屋鳴りは残っています。
Spitfireのホールの響きも残っています。
SWAM側に別のRoom Simulatorが有効になっていれば、その響きも重なります。
結果として、残響は豊かになっても、楽器同士の距離感が不自然になったり、音の輪郭が曖昧になったりすることがあります。
これは、Reverb Plug-inの品質が悪いからとは限りません。
元々異なる空間にある音源へ、さらに共通の空間を重ねていることが原因の一つになり得るのです。
では、どうすればよいのでしょうか。
重要なのは、必ずしもすべての空間を消してしまうことではありません。
例えば、Spitfireのホールの響きを楽曲全体の基準にして、ギターやSWAMをそこへ自然になじませるという考え方もできます。
反対に、ギターを前面に出したポップスなら、ストリングスのRoom成分を抑え、全体を比較的近い距離感でまとめる方法もあるでしょう。
つまり、どの空間を楽曲の基準にするのかという判断が必要なのです。
Reverbをかける前に確認したい5つのポイント
では実際に、新しい音源を立ち上げたとき、何を確認すればよいのでしょうか。
ここでは、私が空間設計を考えるうえで重要だと思う5つのポイントを整理します。
① 最初に、外部Reverbなしで音源を聞く
DAWのReverb SendやInsert Effectを一旦OFFにし、音源が元々どのような響きを持っているのか確認します。
このとき音源内部のReverbやRoom Simulatorが有効なら、それも音に含まれています。
まずは、そのままの出力を把握します。
② 音源内部の空間処理を確認する
次に、音源内部のReverbやRoom設定を確認します。
ONとOFFを比較できる場合は、切り替えて違いを聞いてみましょう。
ただし、サンプル自体に録音された響きと、内部エフェクトで加えられた響きは別のものです。
エフェクトをOFFにしても残る空間があることに注意します。
③ 音の「近さ」を確認する
音が大きいことと、近くに感じることは同じではありません。
直接音が明瞭で、反射音が少なければ、音量が小さくても近く感じる場合があります。
反対に、反射音や残響が多ければ、音量を上げても奥に感じられる場合があります。
音量だけで前後関係を決めないことが重要です。
④ 音が止まった後の響きを聞く
短い音を鳴らし、演奏が終わった直後の響きに注目します。
アタックの後に部屋の反射が感じられるか。
音がどのくらい残るか。
音が消えていく際に、左右へ広がる印象があるか。
こうした点を意識することで、音源に含まれている空間を把握しやすくなります。
⑤ 楽曲全体の空間を決めてからReverbを選ぶ
最後に、楽器をどのような空間へ配置したいのかを考えます。
例えば、目の前で演奏しているような親密な音楽にしたいのか。
それとも、大きなホールで演奏するようなスケール感を表現したいのか。
ここが決まっていれば、Reverbの種類や残響時間も選びやすくなります。
Reverbは、単に音を美しくするためだけのエフェクトではありません。
楽曲の中に、それぞれの楽器が存在する場所を作るための道具でもあるのです。
Dryな音が優れているわけでも、Wetな音が優れているわけでもない
ここで誤解しないでおきたいことがあります。
それは、空間を自由に設計できるからといって、Dryな音源が必ず優れているわけではないということです。
SpitfireやVSLのように、優れた録音環境で収録された音源は、楽器と空間が一体となった美しい響きを持っています。
これは大きな魅力です。
一方、SWAMのような物理モデリング音源では、演奏表現を細かく制御しながら、空間との関係を後から設計できるという利点があります。
どちらも異なる魅力を持っています。
重要なのは、それぞれの音源が何を得意としているかを理解することです。
そして、音源を選ぶ段階で空間を意識することは、後からReverbで音を整える手間を減らすことにもつながります。
場合によっては、最初から理想の空間を持っている音源を選ぶだけで、複雑なエフェクト処理が不要になるかもしれません。
逆に、自由な空間設計をしたい場合は、比較的Dryな音源を選んだ方が適していることもあります。
音源の選択は、すでにミックスの一部なのです。
まとめ|空間設計は、Reverbを選ぶ前から始まっている
今回は、音源が最初から持っている空間について考えてみました。
生楽器録音では、マイクを設置した時点で空間が音に含まれます。
サンプル音源では、録音された部屋やホールの響きが、演奏データとともに保存されている場合があります。
そして物理モデリング音源では、生成した楽器音に対して、後から空間を構築することができます。
これらは、最終的に同じような響きを作れるとしても、そこへ至る仕組みが異なります。
そして、その違いはミックスの自由度や音源同士のなじませ方にも関係してきます。
Reverbをかける前に、まず音源を聞く。
その音に、すでにどんな空間が含まれているのかを考える。
今回の結論は、この2つに集約されます。
Reverbを追加する前に、すでに存在している空間を理解する。
これが、これからの空間設計研究で最も大切にしていきたい考え方です。
次回は、今回登場した「Room」「Ambience」「Early Reflection」「Reverb」という言葉を、もう少し詳しく整理していきます。
似たような意味で使われることも多いこれらの言葉ですが、実際には異なる役割があります。
特にEarly Reflectionは、単なる残響ではなく、音源の距離感や空間の認識に深く関係しています。
次回は、その違いを理解するところから始めたいと思います。
次回:02|Room・Ambience・Early Reflection・Reverbは何が違うのか
参考資料(公式)
- Spitfire Audio:Approaching Microphone Mixes in the SSO
- VSL:Synchron Pianos Microphone Positions
- Audio Modeling:What is Ambiente?
- Native Instruments:SESSION STRINGS PRO 2
空間設計研究|シリーズ記事一覧
音源が持つ空間から、Reverbによる奥行きの演出まで。音楽制作における「空間」をさまざまな角度から考察するシリーズです。
01|音源が最初から持っている「空間」とは何か
02|Room・Ambience・Early Reflection・Reverbは何が違うのか
03|Mic Distanceは音色ではなく「距離」を作っている
04|Reverbを足す前に、元の空間をどう処理するか
05|Early Reflectionで前後関係を作る
06|同じReverbに送れば同じ部屋になるのか
07|SWAM / Ambienteに見る「後から作る空間」
08|Spitfire Audioに見る「録音された空間」
09|生楽器録音では、どこまでが音でどこからが空間なのか
10|ConvolutionとAlgorithmic Reverbはどう使い分けるか
11|Reverb Tailはどこまで必要なのか
12|ミックス全体をひとつの空間として設計する