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PolySWAMを新しく起動すると、これまでになかった解説画面がいくつか表示されるようになりました。
前回の記事では、製品版PolySWAMについて、
単純にSWAMを複数音同時に鳴らす仕組みではなく、演奏を解析しながら各Voiceへ振り分けるシステムになっている
という点を取り上げました。
今回追加された解説画面を見ると、この構造がさらに具体的に見えてきます。
特に重要なのが、
- Dynamic Behavior
- Poly & Legato Analysis
- Polyphony Lock
- Voice Allocation & Poly Engine
です。
これらを見ると、製品版PolySWAMが何をしようとしているのかが、かなりはっきりしてきました。
PolySWAMは「複数音を鳴らすSWAM」ではない
PolySWAMという名前だけを見ると、SWAMをポリフォニック化したもの、と考えてしまいがちです。
しかし実際には、その前段にPoly Engineと呼ばれる演奏解析システムがあります。
MIDIキーボードから送られてきた音をそのまま複数のSWAMへ渡すのではなく、
「これは新しい奏者が弾いた音なのか」
「直前の音から続くレガートなのか」
「和音として発音されたのか」
といった演奏情報を解析したうえで、各Voiceへ振り分けています。
今回の解説画面は、その仕組みを理解するうえで非常にわかりやすい資料になっています。
Voice Allocation & Poly Engine――PolySWAMの内部構造

この画面では、PolySWAM内部が大きく2段階に分かれていることが説明されています。
ひとつは、
POLYPHONIC ENGINE(MIDI ANALYZER)
もうひとつが、
SWAM GENERATOR(PHYSICAL MODELING)
です。
最初にMIDI Analyzerが演奏を解析し、どのVoiceへ音を割り当てるのかを判断します。
例えば、ある音の直後に別の音が入力されたとき、それが
「別の奏者による新しい発音」
なのか、
「同じ奏者によるレガート」
なのかをPoly Engineが判断します。
新しいVoiceが必要なら追加し、レガートと判断されれば既存のVoiceを再利用します。
その判断が終わったあと、各Voiceを実際に発音するのが従来からのSWAM Physical Modeling Engineです。
つまり構造としては、
MIDI入力
↓
Poly Engineによる演奏解析
↓
Voice Allocation
↓
各SWAM Generator
↓
発音
という流れになります。
ここで重要なのが、SWAM Generator自体には追加レイテンシーがない、と明記されていることです。
PolySWAMで発生するわずかなレイテンシーは、Physical Modelingそのものが原因なのではありません。
Poly Engineが演奏内容を判断するための解析時間
によるものです。
これはPolySWAMの挙動を理解するうえで、かなり重要なポイントです。
なぜPolySWAMには解析時間が必要なのか
Solo版SWAMでは、基本的に一つの演奏Voiceだけを考えればよいため、
入力されたMIDIをそのままSWAM Engineへ渡すことができます。
しかしPolySWAMの場合、
「この音を誰に担当させるのか」
という判断が必要です。
複数の音が短い間隔で入力された場合、それが和音なのか、レガートなのか、それとも独立した発音なのか。
PolySWAMはごく短い時間だけ入力を観察して、それを判断します。
そのために存在するのが、次の設定です。
Poly & Legato Analysis――どこまで演奏を観察するか

「POLY & LEGATO ANALYSIS」は、Poly EngineがMIDI入力を解析する時間幅を調整するパラメーターです。
画面には、
解析範囲を広げるほど、演奏ジェスチャーを判断する時間が増える代わりに、わずかにレイテンシーが増える
という説明があります。
つまりこのノブは、
反応速度と演奏解析精度のバランス
を調整していると考えるとわかりやすいでしょう。
解析時間を短くすれば、発音はよりダイレクトになります。
その一方で、LegatoなのかChordなのかを判断するための時間も短くなります。
逆に解析時間を広げれば、PolySWAM側は演奏をより長く観察できるため、Voice Allocationの判断材料が増えます。
ライブ演奏では低レイテンシー寄り。
DAW上で細かなレガートや声部移動を扱う場合には、多少解析時間を持たせる。
そうした使い分けも考えられそうです。
Polyphony Lock――Voice数を固定する
同じ画面の右側にある「POLYPHONY LOCK」も興味深い機能です。
通常PolySWAMは、演奏に応じて必要なVoiceを自動的に増減させます。
例えば2音なら2Voice、4音なら4Voiceという具合です。
Polyphony Lockを有効にすると、その時点で割り当てられているVoice数が固定されます。
新しい音が入力されてもVoiceを増やすのではなく、現在存在するVoiceを再利用するようになります。
この機能が特に重要になるのが、
Polyphonic Glissando
です。
例えば4声のコードを、
C-E-G-B
から
D-F-A-C
へ移動させた場合を考えてみます。
Polyphony Lockを使えば、
Voice 1はVoice 1のまま、
Voice 2はVoice 2のまま、
というように、それぞれの奏者が担当するVoiceを維持しながら次の音へ移動できます。
つまり、
誰がどの音へ移動するのかを予測可能にする
ための機能です。
画面ではこれを「deterministic performance」と表現しています。
String SectionやBrass Sectionのように、各奏者の声部移動を意識した演奏では非常に重要になりそうです。
これは製品版PolySWAMで強化されたDivisi的な考え方とも密接につながっています。
Dynamic Behavior――VelocityとExpressionをどう扱うか
Voice Allocationだけでなく、PolySWAMでは「音をどの程度の強さで鳴らすか」という部分も細かく設定できるようになっています。
今回の解説画面では、「DYNAMIC BEHAVIOR」として3種類のモードが用意されています。

まず大前提として、
Velocityは常にAttackを支配する
と説明されています。
つまり鍵盤を弾いた瞬間の発音ニュアンスは、どのモードでもVelocityによって決まります。
違いが出るのは、その後のSustain部分です。
SWAM Classic
従来のSWAMに最も近い方式です。
AttackはVelocityで決まりますが、設定されたAttack Timeを過ぎたあとはExpressionがダイナミクスを完全にコントロールします。
イメージとしては、
Velocity=発音
Expression=その後の息や弓圧
です。
Breath ControllerやExpression Pedal、CC11を積極的に使う場合には、もっともSWAMらしい挙動になります。
Hybrid
Hybridでは、VelocityとExpressionの両方がSustain中のダイナミクスへ影響します。
最初に強く弾いた音と弱く弾いた音では、その後Expressionを同じ値にしても完全には同じ結果になりません。
Velocityによる演奏ニュアンスを残しながら、Expressionでさらにフレーズを作ることができます。
一般的なMIDIキーボードでPolySWAMを演奏する場合、かなり扱いやすいモードだと思います。
ピアノ的なVelocity演奏と、SWAM的なExpression Controlの中間に位置する方式です。
Velocity
Velocityモードでは、最初のVelocityを基準として、Expressionがそのダイナミクスを連続的にスケーリングします。
つまり、
Velocityで基本的な強さを決め、その範囲をExpressionで動かす
という考え方です。
SWAM ClassicほどExpressionへ完全にコントロールを渡すのではなく、Velocity主体の演奏感を残せることが特徴です。
Sensitivityによって、Expressionの影響度も調整できます。
3つのDynamic Behaviorを整理すると
簡単に整理すると、
SWAM Classic Velocityで発音し、その後はExpression主体。
Hybrid VelocityとExpressionの両方を活かす。
Velocity Velocityを基本として、Expressionでその範囲を動かす。
という違いになります。
従来のSWAMは、Expression Controllerを積極的に操作することを前提とした楽器という印象が強くありました。
しかしPolySWAMでは、通常の鍵盤奏者でも扱いやすい方向へ選択肢が広がっています。
製品版PolySWAMで見えてきたもの
今回の解説画面を見て改めて感じるのは、
PolySWAMは「SWAMのPolyphonic版」ではなく、「演奏解析システムを備えたアンサンブル・エンジン」である
ということです。
Poly Engineが演奏内容を解析し、
新しいVoiceを作るのか、
既存VoiceをLegatoとして再利用するのか、
現在のPolyphonyを固定するのか、
VelocityとExpressionをどう解釈するのか、
といった判断を行います。
その結果をもとに、各SWAM Physical Modeling Engineが個別の奏者として発音します。
Beta版では、PolySWAMは比較的シンプルな「複数音を演奏できるSWAM」という印象もありました。
しかし製品版では、Voice Allocation、Divisi、Legato Analysis、Dynamic Behaviorなどが整理され、
「複数の奏者をどう演奏させるか」
という方向へ明確に進化しています。
これはKontaktなどの一般的なサンプルベースのアンサンブル音源とも少し違います。
PolySWAMでは、録音済みのアンサンブルを再生するのではなく、一つ一つのVoiceがPhysical Modelingによってリアルタイム生成され、そのVoice Allocationまで演奏内容に応じて変化します。
ここがPolySWAMのもっとも面白い部分なのかもしれません。
前回の記事で触れた「Beta版から製品版への思想の変化」は、今回追加された解説画面によって、さらに明確になったように感じます。
PolySWAM正式版はなぜ“便利だったBeta版”を捨てたのか――使いやすさより理念を選んだAudio Modelingの決断