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「ギターのシールドケーブルを変えると音が変わる」
こういう話をすると、ときどき「そんなものはオカルトだ」という意見を目にします。
確かにケーブルについては、少し扱いの難しいところがあります。
高価なケーブルの商品説明には「音の解像度が上がる」「情報量が増える」「音が良くなる」といった表現が並びます。しかし、「良い音」とは何でしょうか。
高域がよく出ることなのか。
中低域に厚みがあることなのか。
原音に忠実であることなのか。
あるいは単純に、自分が弾いていて気持ちいいことなのか。
今回この記事を書こうと思ったきっかけは、手元にある3本のケーブルを実際にギターで弾き比べてみたところ、思っていた以上にはっきりと音色の違いを感じたことでした。
そしてさらに面白かったのが、
曲によっては、比較的安価なケーブルが一番しっくり来る
ということです。
そこで今回は「どのケーブルが一番高音質なのか」ではなく、
シールドケーブルによってなぜ音が変わるのか。そして、その違いをどう音楽に使うのか。
という観点から考えてみます。
今回比較した3本
今回ギターで比較したのは、次の3種類です。
- Fenderのインストゥルメントケーブル
- MOGAMI 2524を使用したケーブル
- Monster Prolink Bass Instrument Cable
Fender Contour Seriesの10ftモデルは約3mで、24AWG導体、90%OFCスパイラルシールド、ニッケルメッキコネクターという仕様になっています。
MOGAMI 2524は20AWG、外径6mm。電気特性も詳しく公開されていて、静電容量は130pF/m、中心導体の抵抗は0.033Ω/m、インダクタンスは0.2μH/mです。
Monsterは少し変わっていて、今回使用したモデルは本来Bass Instrument Cableとして販売されている12ft、約3.6mのモデルです。公式にはDuraflexジャケットなどを特徴としており、ベース用として設計された製品です。
今回はあくまで「ギターに接続したときにどう感じるか」を比較しています。
そもそも、本当にケーブルで音は変わるのか
ここは最初にはっきりさせておきたいところです。
少なくともパッシブピックアップを搭載したエレキギターでは、ケーブルによる音の変化そのものはオカルトではありません。
エレキギターの磁気ピックアップは、単純に音声信号だけを送り出しているわけではありません。
ピックアップにはインダクタンスがあり、ギター内部にはボリュームやトーン回路があり、そこへケーブルの静電容量、さらにアンプの入力インピーダンスなどが加わります。
つまり、
ピックアップ → ギター内部回路 → ケーブル → アンプ入力
までが一つの電気回路として働いているわけです。
AESで発表された研究でも、一般的なバッファーを備えたオーディオ機器間ではケーブルの影響は小さい一方、磁気ピックアップを使ったエレキギターでは、ケーブルの静電容量がシステムの周波数特性に影響することが確認されています。
測定したケーブルでは、共振周波数が最大1.4kHz移動したと報告されています。
つまり、
「ケーブルを交換したら音色が変わった」
という現象そのものには、きちんと電気的な理由があります。
「音が変わる」と「音が良くなる」は別の話
ここからが今回もっとも重要なところです。
ケーブルを交換すると周波数特性が変わることがある。
だからといって、
高価なケーブルほど音が良くなるという結論にはなりません。
ここはまったく別の問題です。
たとえば、高域がより強く感じられるケーブルがあったとします。
それを、
「情報量が増えた」
「解像度が高くなった」
と表現することもできます。
しかし別の曲では、その高域が少し耳につくかもしれません。
逆に、中域が豊かに感じられるケーブルを、
「太い」
「密度がある」
と評価することもできますが、すでに中域の多いアンサンブルでは重たく感じる可能性があります。
つまり、音が変化することは客観的な現象として扱えても、
その変化が音楽的に良いかどうかは別です。
Fender――「キン」とした輪郭
今回3本を交換しながらギター(Cavtonita)を弾いてみて、私が感じた印象はかなり明確でした。
Fenderは3本の中でも、アタックや高域の輪郭が分かりやすく感じました。
少し「キン」としたエッジがあります。
これだけを書くと、場合によってはネガティブな評価に見えるかもしれません。
しかし実際には、このキャラクターが非常に良い方向に働く曲があります。
ギターをアンサンブルの中から少し前へ出したいとき、あるいはピッキングの輪郭を明確にしたいときには、このFenderのキャラクターがとても使いやすい。
そして何より面白かったのは、
3本の中で比較的安価なFenderが、ある曲では一番良いと感じることが実際にあった
ということです。
これは今回の記事を書く大きなきっかけになりました。
MOGAMI 2524――基準点として使いやすい
MOGAMI 2524は、私の感覚では3本の中でもっとも癖が少なく感じます。
Fenderのように「ここが特徴」とすぐ分かる感じでもなく、Monsterのように中域の存在感を強く意識する感じでもない。
そのため、
まずギターそのものの音を確認したい
というときに非常に使いやすいケーブルです。
MOGAMI 2524はメーカー自身が「世界標準のインストルメンタルケーブル」と位置付け、ギターだけでなくベースやキーボードにも対応する製品として展開しています。
もちろん「ニュートラル」という言葉も絶対的なものではありません。
しかし少なくとも私の環境では、比較するときの基準点として非常に扱いやすく感じます。
Monster――中域の密度感
Monsterは、Fenderのような鋭い輪郭とは違い、中域に密度を感じます。
単純に「モコッとしている」という感じではなく、
音の中心部分に少し肉が付く
ような印象です。
この感じが気持ちいいギターや曲もあります。
一方で、すでに中域の豊かなギターやアレンジでは、Fenderの方が抜けが良く感じられる場合もあります。
つまりMonsterがFenderより「高音質」なのではありません。
音色の方向が違う。
私にはそのように聞こえます。
実は「ケーブルで音は変わらない」も理解できる
今回、クリーンだけでなく軽くオーバードライブさせた状態でも3本を比較してみました。
すると興味深いことに、クリーンでは比較的分かりやすかったFender、MOGAMI、Monsterの違いが、オーバードライブではかなり小さく感じられました。
歪みを加えると、アンプ側で中域や倍音が付加され、ピッキングのピークも圧縮されます。その結果、ケーブルによる細かな音色差よりも、アンプやオーバードライブそのもののキャラクターが前に出てきます。
この結果を聴くと、
「ケーブルを変えても音なんて変わらない」
という意見も、ある程度理解できます。
もちろん、ケーブルによる電気的な影響そのものがなくなったわけではありません。
しかし、実際に人が「違いとして認識できるかどうか」は、ギター、アンプ、歪み量、演奏方法、音量、さらにはアンサンブルの中で聴くのか単独で聴くのかによって大きく変わります。
つまり、
ケーブルによって音は変わる。
しかし、その違いがいつでも明確に聞こえるとは限らない。
この二つは両立します。
むしろ今回の比較から感じたのは、「ケーブルで音が変わる/変わらない」という二択で考えること自体が、少し乱暴なのではないかということです。
クリーンでは違いが分かりやすい。
歪ませると差は小さくなる。
さらにバンドアンサンブルの中に入れば、もっと分かりにくくなるかもしれない。
そう考えると、ケーブルの違いとは絶対的なものではなく、使用環境によって表に出たり、隠れたりする音色差と考える方が実態に近いように思います。
「Fender<MOGAMI<Monster」という話ではない
ここで価格を基準にすると、
安価なFender
↓
定番のMOGAMI
↓
より高価なMonster
という縦方向の序列を作りたくなります。
しかし実際に弾いてみると、この並べ方にはあまり意味がありませんでした。
むしろ、
Fender=輪郭
MOGAMI=基準・ニュートラル
Monster=密度
という横方向の選択肢として考えた方が、実際の感覚に近いのです。
そう考えると、
「一番良いケーブルはどれですか?」
という質問そのものが、少し違って見えてきます。
ケーブルは小さな「音色選択」の一つ
もちろん、シールドケーブルを交換したからといって、ギターやアンプを交換したほど劇的に音が変わるわけではありません。
エフェクターのEQを大きく動かしたような変化でもありません。
しかし、
最後の数%の音色を決める要素
として考えると、非常に面白い存在です。
少し高域を立たせたい。
少し中域に密度が欲しい。
できるだけ癖を感じない状態から音作りを始めたい。
そういうとき、
「今日はこのケーブルを使う」
という選択があってもいい。
ケーブルを「音質を向上させるパーツ」と考えるから、高級品か廉価品かという話になってしまいます。
しかし、
ケーブルも音色を作る信号経路の一部
と考えれば、話はかなりシンプルになります。
比較するときには長さにも注意したい
今回ひとつ注意しておきたいのは、3本の長さが完全には揃っていないことです。
FenderとMOGAMIは約3mですが、Monsterは12ft、約3.6mあります。
同じ構造のケーブルであれば、一般に長くなるほどケーブル全体の静電容量も増えます。そのため今回感じたMonsterの音色には、線材や構造だけでなく、長さによる影響が含まれている可能性もあります。
したがってこの記事は、線材そのものを実験室的に比較するものではありません。
あくまで、
市販されている3本を実際のギター演奏環境で使ったとき、私はどう感じたか
という比較です。
むしろ実際に製品を購入して使うユーザーにとっては、こちらの方が現実的な比較ではないでしょうか。
自分にとっての「良いケーブル」を選ぶ
高級ケーブルの世界では、ときどき「音が良い」という言葉が非常に曖昧に使われます。
しかし今回3本を使ってみて、改めて感じたことがあります。
良いケーブルを探すのではなく、自分が欲しい音になるケーブルを選べばいい。
高価だから選ぶ必要もありません。
有名だから選ぶ必要もありません。
反対に、安いから避ける必要もありません。
自分が使っているギター。
アンプ。
弾いている曲。
アンサンブル。
そして、自分自身の弾き方。
それらとの組み合わせの中で、
「今、この音が欲しい」
と思えるケーブルを選ぶ。
今回、曲によってはFenderのケーブルが一番しっくり来たという経験は、そのことを非常に分かりやすく教えてくれました。
まとめ――音が変わる。でも、そこに順位を付ける必要はない
シールドケーブルによってギターの音が変化することは、少なくともパッシブピックアップを使った環境では電気的に説明できます。
だから、
「ケーブルによる音の変化はすべてオカルト」
と言い切ってしまうのは正確ではありません。
しかし、その反対に、
「高級ケーブルほど音が良い」
という考え方にも私は違和感があります。
音色が変わることと、音が良くなることは別だからです。
FenderにはFenderの良さがあり、MOGAMIにはMOGAMIの良さがあり、MonsterにはMonsterの良さがある。
そして曲が変われば、その評価も変わります。
ケーブルを価格やブランドで縦に並べるのではなく、
ひとつの音色の選択肢として横に並べてみる。
そうするとシールドケーブル選びは、「どれが一番高音質か」という少し窮屈な話から、
「今日はどの音で弾こうか」
という、もっと音楽的で楽しい話に変わってくるのではないでしょうか。