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先日、新しいギターとしてFenderの「75th Anniversary American Professional Classic Cabronita Telecaster」を購入しました。
ただし、最初からCabronitaだけを見て、そのまま購入したわけではありません。
店頭ではほかにも気になるギターがあり、最終的には次の3本を実際に弾き比べました。
- Infinite Trad T
- Black Smoker Standard Series DELTA-S
- Fender 75th Anniversary American Professional Classic Cabronita Telecaster
価格帯だけを見ても、どれか一方が明らかに上位、という比較ではありません。
そして実際に触ってみると、3本とも非常によく出来ています。
だからこそ面白かったのは、
「よく出来ているギター」と「自分が欲しくなるギター」は、必ずしも同じではない
ということでした。
今回は、この3本を比較しながら、最終的に私がCabronitaを選んだ理由について書いてみたいと思います。
まずは3本の方向性を簡単に比較してみる
細かなスペックをすべて並べるより、今回の比較で特に印象的だった部分をまとめると、それぞれの方向性が見えてきます。
| Infinite Trad T | Black Smoker DELTA-S | Fender Cabronita | |
|---|---|---|---|
| タイプ | Tタイプ | Tタイプ | Telecaster |
| スケール | 648mm | 648mm | 648mm |
| 特徴 | BFTSなど独自の設計思想 | 国産ハンドメイド、ビンテージとモダンの融合 | TV Jones×2、極めてシンプルな操作系 |
| コントロール | 1Vol / 1Tone / 3Way | 1Vol / 1Tone / 3Way | Master Volume / 3Way |
| 今回の個体で印象的な点 | ピッチや設計へのこだわり | Flame Mapleネック/指板、約3.49kg | TV Jones、Volumeのみ、購入個体3.29kg |
今回のBlack Smokerは、アルダーボディにFlame Mapleのネックと指板、648mm/22フレット、305R、1Volume/1Tone/3Wayという仕様。Black Smokerオリジナルのシングルコイルを搭載した2025年製の個体です。
Cabronitaはアルダーボディ、648mmスケール、Modern Cシェイプのメイプルネック、9.5インチR、Medium Jumboフレット。そして最大の特徴ともいえるのが、TV Jones TV Classicを2基搭載しながら、コントロールはMaster Volumeひとつだけという構成です。
同じTタイプ/Telecaster系の形をしていても、こうして見ると考え方はかなり違います。
Infinite Trad T――伝統的な形を、現代の技術で再構築する
まず試したのがInfinite Trad Tです。
見た目だけなら、比較的オーソドックスなTタイプに見えます。
しかし実際には、かなり「設計」というものを意識させられるギターでした。
特に店員さんから説明していただいたのが、ヘッド裏にもロゴが入っている**Buzz Feiten Tuning System(BFTS)**です。
BFTSは、ナット側とブリッジ側の補正によって、ギターという楽器が構造上持っているイントネーションの問題を抑えようとする仕組みです。ローポジションで音程がシャープしやすい問題などに対して、ナット位置やサドル側のオフセットを利用して補正します。
ここで面白いのは、「昔ながらのTタイプをそのまま再現する」という思想ではないことです。
伝統的な形を残しながら、
現代の技術を使って、より精密な楽器として作り直す。
Infiniteには、そんな方向性を感じました。
実際に弾いてみても、コードを鳴らしたときのまとまりや、複数の音が同時に鳴ったときの整理された感覚が印象に残ります。
Infinite Trad T 店頭試奏。コードや複数弦を鳴らしたときの音のまとまり、各音の輪郭に注目して聴いてみてください。
※BFTSだけが音の違いを生んでいるわけではありません。ここでは、あくまで今回の個体全体として感じた特徴を確認するための試奏として掲載しています。
Black Smoker DELTA-S――「完成度の高さ」が前に出てくる
次に試したのがBlack SmokerのStandard Series DELTA-Sです。
今回の個体はOld Green Metallicにゴールドパーツ、さらにネックと指板の両方にFlame Mapleを使用した、かなり印象的な仕様でした。
Standardシリーズはウレタン塗装で、今回の個体はアルダーボディ、Flame Mapleネック/指板、648mmスケール、22フレット、305R。GOTOH製パーツとBlack Smokerオリジナルピックアップを組み合わせています。重量は約3.49kgです。
Infiniteが「設計思想」に目が行くギターだとすれば、Black Smokerではまず、
楽器として全体がきれいに整っている
という印象を持ちました。
極端な癖を出すというより、レスポンス、音域のバランス、演奏性など、それぞれの要素が高いところでまとまっている。
販売店の商品説明でも「ビンテージとモダンのハイブリッド」と表現されていますが、実際に触れてみても、その言葉はよく分かります。
昔ながらのTタイプらしさを残しながら、現代の楽器として非常に扱いやすい。
これは素直に「良いギターだな」と感じる一本でした。
Black Smoker DELTA-S 店頭試奏。音域全体のバランスと、弾いた瞬間のレスポンスの良さが印象的でした。
Cabronita――方向性はむしろ逆だった
そしてCabronitaです。
InfiniteやBlack Smokerを見たあとにスペックを確認すると、このギターはかなり異質です。
ピックアップはTV Jones TV Classicが2基。
3Wayスイッチ。
そしてコントロールは、
Master Volumeがひとつだけ。
Toneすらありません。
Fender自身も、このモデルをアルダーボディ、TV Jones Filter’Tron系ピックアップ、Modern Cネック、9.5インチRという構成でまとめています。
Infiniteが「技術を投入する」方向だとすれば、Cabronitaはむしろ逆です。
必要のないものを削っていく。
それによって、このギターが何をする楽器なのかを明確にしているように感じます。
購入した個体は3.29kg。
実際に店頭で弾いたときには、アンプを通した音だけでなく、生音で鳴らしたときの響きや余韻にも惹かれました。
そして何より印象的だったのが、音の中心です。
Fender Cabronita Telecaster 店頭試奏。私が特に惹かれたのが中域の密度でした。レンジの広さというより、音の「芯」が前へ出てくる感覚があります。
自分だけで判断せず、店員さんにも弾いてもらった
今回、3本とも店員さんに演奏をお願いしました。
ギターを選ぶ以上、自分で弾いたときの感触はもちろん重要です。
しかし、自分で弾くだけではどうしても判断に偏りが出ます。
ギターが変われば、それに反応して無意識に弾き方も変わります。
そこで同じ奏者に弾いてもらうことで、
「自分の弾き方」ではなく、「楽器が変わったことで何が変わるのか」
を少しでも客観的に確認したかったのです。
もちろん、今回掲載する動画はスマートフォンによる店頭収録です。
マイク位置を固定した厳密な測定でもなければ、実験室的なA/Bテストでもありません。
したがって、「この動画を根拠にどのギターが優れている」と判断するものではありません。
それでも、同じ場所で、同じ奏者が弾いた音を聞くことには十分意味があると思います。
スペックを見る限り、Cabronitaが圧勝する理由はない
ここまで3本を見てきて、改めて面白いと思うことがあります。
スペック表だけを見れば、
「それなら当然Cabronitaを買うだろう」
という結論にはならないのです。
InfiniteにはBFTSをはじめ、ギターという楽器をより精密に成立させようという考えがあります。
Black Smokerは、国産ハンドメイドらしい高い完成度と、ビンテージとモダンをうまく融合した設計を持っています。
どちらも非常に魅力的です。
むしろスペックを読む楽しさだけなら、Cabronitaより情報量が多いかもしれません。
では、なぜCabronitaだったのか。
決め手になったのは「中域の密度」
私がCabronitaを弾いて特に感じたのは、
中域の存在感です。
高域がどこまで伸びるとか、低域がどこまで出るとか、そういう意味での「レンジの広さ」とは少し違います。
音の中心がはっきりしています。
単音を弾いても、コードを鳴らしても、
音がどこにいるのかが分かりやすい。
これはギター単体で聴いたときだけではなく、アレンジの中へ入れたときにも重要です。
私はギターだけで完結することより、ベース、ドラム、ピアノ、シンセサイザー、ボーカルなどと組み合わせて使うことの方が圧倒的に多い。
そう考えると、
「単体でどれだけ豪華な音がするか」
だけではなく、
「この音を曲のどこに置きたいと思うか」
という判断になります。
Cabronitaを弾いたときには、それがすぐに想像できました。
「良い音」と「使いたい音」は同じではない
今回の3本を比較して、改めて感じたことがあります。
楽器の評価には、少なくとも二つの軸があります。
ひとつは、
どれだけ良く出来ているか。
もうひとつは、
その音を自分が使いたいと思うか。
この二つは似ていますが、同じではありません。
Infiniteを弾けば、その設計の面白さに感心します。
Black Smokerを弾けば、楽器としての完成度の高さを感じます。
それでも最終的に私が手元へ置きたいと思ったのはCabronitaでした。
「一番優れたギターを選んだ」という感覚ではありません。
むしろ、
一番、自分が音楽を作りたくなったギターを選んだ。
こちらの方が近いと思います。
当たり個体とは、スペック表の外側にあるものかもしれない
以前から、ギターの「当たり個体」について考えています。
もちろん木材や重量、パーツ、ネックの精度など、数値や仕様として説明できる部分はたくさんあります。
それらは重要です。
しかし、今回3本を実際に比較してみると、それだけでは最後の判断まで到達できませんでした。
同じモデルであっても、重量や振動の伝わり方、ネックを握った感触、生音で鳴らしたときの響きには個体差があります。
だからこそ、スペックを調べることは、
候補を絞るところまでは助けてくれる。
しかし、
最後の一本を決めるところまでは、スペック表は付き合ってくれない。
今回購入したCabronitaも、「Cabronitaというモデルだから選んだ」というより、この個体を実際に触り、ほかの2本と比較した結果として選びました。
良いギターと、欲しくなるギターは同じではない。
そして、その違いを実際に確かめられるところに、楽器店でギターを選ぶ面白さがあるのだと思います。