Instrument XはなぜAudiostockで受け入れられないのか

  • 2026年8月29日
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AI時代に「人が作った素材」を提供するという選択

Dreamtonicsから登場した「Instrument X」。

従来のサンプルライブラリとは異なり、ニューラル音響モデリングによって、入力した楽譜やMIDIから生楽器らしい演奏表現を生成する新しいタイプの音源です。

DreamtonicsはInstrument Xについて、従来の静的なサンプル再生ではなく、ニューラル音響モデリングによって楽譜を有機的な演奏へと変換する仕組みだと説明しています。また、学習データには倫理的に録音されたセッション・マスターを使用し、商用リリースにも利用できるとしています。

つまり、Instrument Xは「AIに曲を作ってもらう」タイプのサービスではありません。

人間が音符を書き、楽曲を構成し、その演奏表現をInstrument Xが生成する。

以前の記事では、これを

「AIを作曲家ではなく、仮想的な演奏者として利用する」

という観点から考察しました。

ところが、ここで興味深い問題が出てきます。

現在、Audiostockでは、AI作曲サービスを用いた作品を登録することができません。

しかも対象は、AIが曲全体を自動生成した場合だけではありません。公式ヘルプでは、作曲や編曲の一部にAI作曲サービスを使用した場合も登録できないとしています。また、AI歌声合成・AI歌声変換を使用した素材も販売対象外と明記されています。

では、なぜInstrument Xのような「人間が作曲し、AIが演奏する」タイプの音源まで、こうしたルールの対象になるのでしょうか。

そして、この判断は本当に「AI技術に対する否定」なのでしょうか。

私は、むしろ別のところに理由があるのではないかと思っています。


Audiostockは「AIを否定している」のか?

まず、ここは明確に分けて考える必要があります。

AudiostockがAIを使用した作品を受け入れないことと、AudiostockがAI技術そのものを否定することは同じではありません。

Audiostockの公式ヘルプを見ると、同社はAI作曲サービスやAI歌声合成を使用した作品を販売対象外としています。

しかし、それは、

「AI技術は音楽制作に使うべきではない」

という宣言ではありません。

むしろ企業として、

「AIを使って作品を作ることは否定しない。しかし、Audiostockで提供する素材については、人間のクリエイターが制作したものを扱う」

という立場を選択している、と考える方が自然です。

これは技術論ではなく、サービスとして何を提供するのかという企業のポジショニングの問題です。


「人が作った素材」を提供するというブランド

Audiostockは、音楽や効果音、ボイスなどの素材を提供するプラットフォームです。

そして公式ヘルプでは、登録できる作品について「ご自身が制作したものなど、権利を有しているもの」を登録対象としています。さらに、すべての作品について審査を行い、ユーザーが商品として音源を求めて訪れるため、取り扱う作品について一定の品質を担保する必要があると説明しています。

ここにAudiostockというサービスの性格が表れているように感じます。

Audiostockが提供しているのは、単に「音声ファイル」ではありません。

誰かが作った音楽や音を、安心して購入し、自分の作品に利用できる環境そのものです。

そう考えると、

「Audiostockにある素材は、人間のクリエイターが作ったものです」

というルールには、かなり大きな意味があります。


クリエイターから見ると「時代遅れ」に見えるかもしれない

もちろん、この判断に違和感を持つクリエイターもいるでしょう。

特に現在のAI技術を積極的に利用している人からすれば、

「なぜAIを使っただけで素材として扱ってもらえないのか?」

という疑問が生まれるのは当然です。

Instrument Xのように、人間が作曲した楽譜を入力し、AIが演奏表現を生成するソフトまで対象になるのであれば、

「これはAI作曲とは違うのでは?」

と感じる人もいるでしょう。

実際、Instrument XはDreamtonics自身が「AIを使って音楽を生成するものではなく、AIによって録音された楽器をモデル化・合成するもの」と説明しています。

その意味では、AI技術を利用したいクリエイターから見ると、Audiostockのルールは少し保守的に見えるかもしれません。

しかし、私はここで「Audiostockは時代遅れだ」と結論づけるのは早いと思っています。

なぜなら、販売する側と購入する側では、AIに対する価値観が違うからです。


素材を「買う人」から見ると、話が変わる

例えば映像制作者がBGMを探しているとします。

その人が、

「この音源は誰が作ったのだろう?」

と考えたとき、

「人間のクリエイターが制作した素材です」

ということが明確なら、それ自体が一つの安心材料になります。

特にAIによって音楽を作ることが急速に一般化している現在では、

「AIではない」ことが、逆に商品の特徴になる可能性があります。

これは少し逆説的です。

AI技術が進化すればするほど、

「AIで作れる」

ことの希少性は下がっていきます。

一方で、

「これは人間が作った」

という情報の希少性は、むしろ上がっていくかもしれません。


「AIを使っていない」ことが価値になる時代

これまで、テクノロジーの進化では、

より速く
より簡単に
より自動的に

できることが価値になってきました。

音楽制作でも同じです。

AIによって、

  • 作曲
  • 編曲
  • 歌唱
  • 演奏
  • ミックス
  • マスタリング

まで、さまざまな工程を自動化できるようになっています。

しかし、それが一般化したとき、価値の基準が逆転する可能性があります。

例えば、

「AIを使って作りました」

ではなく、

「人間のクリエイターが作りました」

ということ自体が、ブランドになる。

これは「AIに反対する」ということではありません。

むしろ、

AIが当たり前になるからこそ、人間による創作を明確に差別化する。

そういう戦略です。


AIシンガーをめぐる感覚

この問題を考えるうえで、AIシンガーは分かりやすい例です。

AI歌声合成そのものは、現在では高度な音楽制作技術の一つになっています。

人間が歌詞を書き、メロディを作り、音程や表現を細かく編集し、一つの作品として完成させる。

そこには間違いなく人間の創作があります。

それでも、AI歌唱に対して「チートではないか」という感覚を持つ人が存在するのも事実です。

ここで重要なのは、その感覚が正しいか間違っているかではありません。

実際に市場の中で、そのような受け止め方が存在しているということです。

そうであるならば、素材を提供する企業が、

「私たちはAI歌唱を使った素材ではなく、人間のクリエイターによる素材を提供します」

というブランドを構築することには、十分な意味があります。


企業にとっては「制限」が「価値」に変わる

これはマーケティングの観点から見ると非常に興味深いところです。

普通なら、

「利用できる技術を制限する」

ことはサービスにとってマイナスです。

しかし、その制限によって購入者が得られる安心感が増えるのであれば、話は変わります。

例えば、

AudiostockではAI作曲・AI歌声合成を使用した素材を取り扱っていない。

というルールがある。

すると購入者は、作品一つひとつについて、

「これはAIなのだろうか?」

と確認する必要がありません。

つまり、Audiostockが素材の出自に関する不確実性を、サービス側で取り除いているわけです。

これはかなり大きな価値です。


だからInstrument Xの問題は「技術的にAIかどうか」ではない

ここでInstrument Xに戻ります。

Instrument Xは、人間が作曲した音符をもとに演奏を生成します。

これはSunoのような、

「このような曲を作ってください」

という生成とは明らかに違います。

しかしAudiostock側から見れば、

「AIが制作工程に介在している作品かどうか」

という基準で考えることができます。

そして現在のAudiostockの公式ルールでは、AI作曲サービスについて「作曲や編曲の一部に用いられている場合でも」対象外としています。

つまり、

AIが曲全体を作ったか

ではなく、

AIが制作工程のどこに介在したか

という問題として捉えているわけです。

この考え方なら、Instrument Xが境界線上にあることも理解できます。


「人間が作曲し、AIが演奏する」という新しい領域

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ただし、ここには今後大きな問題が残ります。

例えば、

人間が作曲し、AIが歌う。

これはAudiostockでは現在対象外です。

では、

人間が作曲し、AIがバイオリンを演奏する。

これはどうでしょうか。

さらに、

人間が作曲し、人間が演奏し、AIがミックスする。

これは?

人間が作曲し、人間が演奏し、AIがノイズを除去する。

これは?

AIによる技術が制作工程のあらゆる場所に入り込んでくると、

「AIを使った作品」と「AIが作った作品」をどこで区別するのか?

という問題が必ず出てきます。

Instrument Xは、その境界線を考えるうえで非常に分かりやすい存在なのです。


Audiostockの判断は、むしろ「明確さ」に価値がある

ここで私は、Audiostockの判断をかなり合理的なものだと感じます。

なぜなら、Audiostockは、

「AIとは何か?」

という難しい哲学的問題に答えようとしているのではなく、

「私たちは何を扱うサービスなのか?」

を決めているからです。

AIを使った作品を一つずつ、

「これは人間の創作性が何%だからOK」

「このAIは演奏だけだからOK」

「このAIは作曲にも関与しているからNG」

と判断することもできます。

しかし、それは非常に複雑です。

一方、

「AI作曲・AI歌声合成等を用いた作品は扱いません」

というルールなら、クリエイターにも購入者にも分かりやすい。

そして、その明確さそのものがAudiostockのブランドになります。


AIを否定するのではなく、「自分たちが何者なのか」を明確にする

ここが今回、私が最も重要だと思うポイントです。

Audiostockの判断を、

「AIに反対する会社」

と捉える必要はないと思います。

むしろ、

「AIが進化していく時代だからこそ、私たちは人間のクリエイターが作った素材を提供する会社である」

という立ち位置を明確にした、と考えた方が自然です。

AIを使いたいクリエイターは、AIを使えばいい。

AIによって新しい音楽表現を追求することも否定しない。

しかし、Audiostockはその市場とは別に、

「人間が作った素材を探したい人のための場所」

になる。

これはAI時代だからこそ成立する、新しいブランド戦略とも言えるでしょう。


「人間が作った」という情報に価値が生まれる

ここから先は、まだ答えの出ていない問題です。

AIがさらに進化して、

「人間が作った音楽」と「AIが作った音楽」の音質的な差がほとんどなくなったとき、私たちは何を基準に作品を評価するのでしょうか。

そのとき、

「これは人間が作った」

という情報は、今よりも重要になるのかもしれません。

音そのものでは区別できない。

だからこそ、

誰が、どのように作ったのか。

という制作プロセスそのものが、作品の価値になる可能性があります。

Audiostockの現在の方針は、そうした未来を先取りしているようにも見えます。


Instrument Xが投げかける問い

そして、ここでInstrument Xがもう一度面白い存在になります。

Instrument Xは、

人間が作曲する

AIが演奏する

という新しい制作方法を提示しています。

これは「AIに音楽を作ってもらう」という従来のイメージとは違います。

むしろ、

AIを仮想的な演奏者として利用する。

そんな新しい創作の形です。

だからこそ、

「人間が作った音楽」とは何なのか?

という問いが、より難しくなります。

作曲者が人間なら「人間が作った」と言えるのか。

演奏者がAIなら「AIが作った音楽」なのか。

あるいは、

人間とAIが共同で作った音楽

と考えるべきなのか。

これはInstrument Xの性能とは別の、非常に大きなテーマです。


まとめ――Audiostockは「AIではなく人間」を選んだのではない

今回のAudiostockの判断を見て、私は、

「AI技術を否定している」

とは考えていません。

むしろ、

「AI時代だからこそ、人間のクリエイターが作った素材を提供する」という企業としてのポジションを明確にしている

のではないかと思います。

AIを利用して音楽を作ることを選ぶクリエイター。

AIを使わず、自分自身の演奏や制作技術によって作品を作るクリエイター。

どちらが正しいという話ではありません。

ただ、Audiostockがその中から、

「人間のクリエイターによる素材」

という価値を選んだ。

そして、その選択によって、

「Audiostockにある素材なら、人間が作ったものを探せる」

という安心感を購入者に提供する。

これは、AIが急速に普及している現在だからこそ成立する、非常に合理的なブランディング戦略なのではないでしょうか。

そして皮肉なことに、AI技術が高度になればなるほど、

「AIを使っていること」ではなく、「人間が作ったこと」そのものがブランドになる可能性があります。


その先にある問い

ただし、ここで話を終えることはできません。

Instrument Xのように、

「人間が作曲し、AIが演奏する」

という制作方法が登場したことで、私たちは新しい問いを突きつけられています。

AIはどこまで音楽制作に関われば「AIが作った音楽」になるのでしょうか。

そして逆に、

どこまで人間が関与していれば、「人間が作った音楽」と言えるのでしょうか。

これはAudiostockだけの問題ではありません。

これからAIが作曲、演奏、歌唱、ミックス、マスタリングなど、音楽制作のあらゆる領域に入り込んでいく中で、すべてのクリエイターが考えることになるテーマだと思います。

今回はInstrument XとAudiostockの判断をきっかけに、この問題を考えてみました。

次回はさらに一歩踏み込んで、

「AI時代に、“Human Made”は本当に新しい価値になるのか?」

というテーマについて考えてみたいと思います。

 

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付録ー調声に最適なヘッドフォン!


付録として、エムフリお気に入りのお薦めグッズをここに掲載します!

今回は調整作業に使っている、ヘッドフォンです。


僕は基本的にヘッドフォンで音楽を聴くのは好きではなくて、アナログ録音時のモニターか雑音などの最終チェックにしか使いません。

その理由は再生音がヘッドフォンによる特性にかなり左右されるからです。なので制作時にはその目的に応じた音のヘッドフォンを選択することになります。録音時のモニターや雑音を検知するのに適したものを選びます。

ただ、ヘッドフォンはそれほど好きではないのです。空間を介さない直接耳に伝える音なので、どちらかというと好んで使うというよりも、作業工程で仕方なく使うことが多いです。

購入までの経緯

最近、SynthesizerVで調声をするようになって、MacBookPROを使用して外出先などでも作業するようになりました。そうするとヘッドフォンは必須となってきます。長時間装着して疲れなければ、まぁイイかくらいで適当に選んでいました。

当初はデザイン性からTeenage Engineering のヘッドフォンを使用していました。オシャレな感じと携帯に便利なので使っていました。ハイがカットされて中低位域がモッコリするのですが、聞き疲れしないので気に入っていました。しかし、カバンに入れて持ち歩いていると可動部分が折れてしまいました。

気に入っていたので(デザインが〜笑)再注文して、ついでにいろいろ検索していると「アシダボックス」なるものを見つけました。ものすごく評判が良くて一時期は入手困難な状態が続いていました。日本のメーカーでデザインがなんともレトロ。

Teenage Engineeringのヘッドフォンよりも安かったのでポチってみました。

調声に最適

結論からいいますと、めっちゃイイです。特にSynthesizerVの調声作業にバッチリです!

丁度、人の声の部分が聞きやすくて微細な変化もこのヘッドフォンだと聞き逃すことがないです。SynthesizerVで調声をされている方には、是非是非お薦めのヘッドフォンです。コスパも良いです。

同じデザインで、ST-90-05ST-90-07というのがあります。僕が購入したのはST-90-07のほうです。評判になっていたのはST-90-05のほうなのですが、さらにパーツのグレードを上げて音をよくしたのががST-90-07です。

低域はあんまり出ませんので、そういった需要の音楽には不向きです。声が聴き取りやすいので、調声とは抜群に相性がイイです。先にもいったようにヘッドフォンは、その目的に応じて使うのが理想的で万能性を求めるものではありません。

最初にいったようにヘッドフォンを使うのはあまり好きではないのですが、これはかなりお薦めです。これを使い出してから、SynthesizerVの調声で細部の音の動きに迷うことが減って作業効率が上がりました。

とにかく声の微細な変化がとてもわかりやすいので、是非使ってみてください!


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