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United Plugins / Soundevice Digitalから「Royal Compressor XT」が登場しました。
Royal Compressorは、1960年代の英国製ヴィンテージ真空管コンプレッサーから着想を得たVari-Muタイプのコンプレッサーです。
ピークを正確に叩く現代的なデジタルコンプレッサーとは少し方向性が違い、
滑らかなコンプレッションと真空管的なサチュレーションによって、音に密度やまとまりを加える
ことを得意としています。
Royal Compressor XTは、この従来のRoyal Compressorを単純に高機能化しただけではありません。
最大の特徴は、
1つのプラグインの中に2基のRoyal Compressorを搭載したこと。
さらに、その2基を
- Left / Right
- Mid / Side
- Low / High
に振り分けて、それぞれ別々の設定で処理できます。
従来版の持つヴィンテージ的なサウンドを残しながら、現代的なミキシングやマスタリングにも対応できる構造になったわけです。
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まずは公式デモを見ると非常に分かりやすい
Royal Compressor XTの基本的な動作については、メーカー公式のデモ動画が非常に分かりやすくまとめられています。
ドラムを使って各モードを切り替えているため、2基のコンプレッサーをどのように使い分けるのかを短時間で確認できます。
動画では主に追加された機能が簡潔に紹介されています。
この記事では、そこからもう一歩踏み込んで、
「各ノブが何をしているのか」
「どのような音源にどう使えるのか」
「2基構成をどう応用できるのか」
について考えてみます。
Royal Compressor XTの基本構造
画面を見ると、上下にほぼ同じコンプレッサーが2台並んでいます。
それぞれに、
- Trim
- Input Control
- Model A / B / C
- Recovery
- Saturation
- Output Attenuator
- Dry / Wet
- Power
- Solo
が用意されています。
つまり、単に「ステレオコンプレッサーが2台」というだけではありません。
左右、Mid/Side、周波数帯域などに分割された音に対して、ModelやRecovery、Saturationまで完全に別設定にできる
ところがRoyal Compressor XTの面白さです。
各コントロールを理解する

Trim
入力信号をプラグインに入れる前に減衰させるためのコントロールです。
Royal CompressorはInput Controlを上げることでコンプレッション量だけでなくキャラクターも変化するため、信号レベルが高すぎる場合にはTrimで適切な範囲に調整します。
派手なノブではありませんが、入力段を適切に管理するための重要なコントロールです。
Input Control
Royal Compressorで最も重要なノブのひとつです。
Input Controlを上げるほどコンプレッサーへ大きな信号が入り、結果としてGain Reductionも増えていきます。
従来版の仕様では、
0 = 0dB
10 = +24dB
となっています。
一般的なコンプレッサーにある「Threshold」を下げるのではなく、
入力を押し込んでコンプレッサーを動かす
と考えると分かりやすいでしょう。
この操作感そのものが、ヴィンテージコンプレッサーらしい部分でもあります。
Model A / B / C
Royal Compressorには3種類の回路モデルがあります。
これは単なるEQ的な「色違い」ではありません。
モデルごとに固定されたAttack Timeとサウンドキャラクターが異なっています。
Model A
最もAttackが遅く、約70ms。
そして3種類の中では最もクリーンです。
最初のトランジェントを残しやすいため、
- Drum Bus
- Bass
- Acoustic Guitar
- Piano
- Mix Bus
など、「アタックを潰したくない」音源に向いています。
Model C
約17msと最もAttackが速く、同時に最も色付けの強いモデルです。
- Vocal
- Bass
- Drum Room
- 強めのパラレルコンプレッション
など、音の存在感や密度を積極的に作りたい場合に面白いでしょう。
Model B
AとCの中間的なポジションです。
Aでは少し緩すぎる、しかしCほど積極的に音を変えたくない場合のスタートポイントとして使いやすいモデルです。
メーカーもAを最も遅くクリーン、Cを最も速くカラフルなモデルと説明しています。
Recovery
Recoveryは、一般的なコンプレッサーでいうReleaseに相当します。
Royal Compressorでは連続可変ではなく、段階的に設定します。
1 = 最も速い
6 = 最も遅い
という構造です。
速いRecoveryではコンプレッションが素早く戻るため、リズミカルで動きのある音になります。
逆に遅くするとGain Reductionがゆっくり戻るため、滑らかで安定したコンプレッションになります。
HOLDとは何か
Recoveryノブには赤く表示された「HOLD」という位置があります。
これは通常のReleaseとはかなり異なります。
直前のピークによって生じたコンプレッション状態を非常に長く保持します。
通常のレベリング用途というより、
特殊なサウンドデザインや極端なコンプレッション
として考えた方がよいでしょう。
まずRoyal Compressorを使い始める場合は1〜6の通常Recoveryから試し、HOLDは後から実験するくらいで十分だと思います。
Saturation
Royal Compressorのもうひとつの重要なポイントです。
コンプレッションとは独立して真空管的なサチュレーション量を調整できます。
メーカーによれば、
Saturation 100%がモデルとなったヴィンテージハードウェアに相当するキャラクター
として設計されています。
つまりRoyal Compressorは、
「音量を揃えるためのコンプレッサー」
としてだけでなく、
アナログ的な質感を加えるサチュレーター
としても使えます。
Gain Reductionをほとんど発生させず、Saturationだけを加えるという使い方も面白いでしょう。
Output Attenuator
Input Controlを上げると当然出力レベルも変化します。
そこで最終的なレベルをOutput Attenuatorで調整します。
特にコンプレッションを評価するときは、
BYPASS時と処理後の音量をできるだけ揃えて比較する
ことが重要です。
単純に音が大きくなっただけなのに「良くなった」と感じることを防げます。
Dry / Wet
処理前と処理後の信号をブレンドします。
Royal Compressorを強めにかけたあとDry/Wetを戻すことで、
パラレルコンプレッション
をプラグイン単体で作ることができます。
例えばドラムで、
Gain Reductionをかなり大きくする
↓
Saturationも加える
↓
Dry/Wetを30〜50%程度へ戻す
とすると、
元のトランジェントを残しながら、コンプレッションされた太い成分を加えることができます。
Royal CompressorではDry/Wetのブレンド後にSaturation段が配置されている点も特徴です。
XT最大の特徴――2基のコンプレッサーをどう使うか

ここからがRoyal Compressor XTの本題です。
中央にあるMODEから処理方法を選択します。
L/R――左右を別々にコンプレッション
L/Rではステレオ信号の左と右を独立して処理できます。
例えば、
- Double Track Guitar
- Drum Overhead
- Stereo Piano
- Stereo Recording
などで、左右のダイナミクスに差がある場合に有効です。
右側だけ演奏が強い場合でも、左右を同じコンプレッサーに入れて全体を引っ込める必要がありません。
左はGR 1dB、右はGR 3dBといった処理も可能になります。
メーカーもダブルトラックギターやオーバーヘッド、左右のバランスが異なるステレオ録音を代表例として挙げています。
M/S――センターと広がりを別々に扱う
M/Sでは、
Mid = センター成分
Side = 左右の差分、つまり広がり成分
に分けて処理します。
例えばMix Busで、
Mid
→ Vocal、Kick、Bassを軽くまとめる
Side
→ コンプレッションを弱くしてAmbienceやReverbを残す
という処理が可能です。
逆にSideだけに軽くSaturationを加えて、ステレオ成分の密度を調整することもできます。
このモードはMix BusやMasteringで特に面白い機能です。
ただし、「Sideを圧縮すれば必ず音が広がる」というものではありません。
あくまでMidとSideのダイナミクスや質感を独立して調整できる、と考えた方が正確です。
Low / High――2Band Vari-Muとして使う
Low/HighではRoyal Compressor XTが、
2BandのVari-Muコンプレッサー
になります。
クロスオーバー周波数を設定し、その上下を2台のRoyal Compressorで別々に処理します。
これは非常に便利です。
例えばMix Busで低域だけが大きく鳴ると、通常のフルバンドコンプレッサーではBassやKickに反応して曲全体がコンプレッションされてしまう場合があります。
そこで、
Low
→ 低域だけ1〜3dB程度抑える
High
→ ほぼ無処理
とすることで、低域だけを安定させることができます。
逆に、
Low
→ Punchを残すため軽め
High
→ Saturationを少し多め
という音色作りも可能です。
SOLOとPOWERが意外に重要
2基構成になると、現在どの成分を処理しているのか分かりにくくなることがあります。
そこで便利なのが各セクションのSOLOです。
Low/HighモードならLowだけをSoloにして低域を確認。
M/SならSideだけを聴いて、そこへどの程度コンプレッションやSaturationを加えるか判断できます。
またPOWERをOFFにすれば、
Midだけ処理
Sideだけ処理
Lowだけ処理
Highだけ処理
という使い方もできます。
これはXTならではの重要な機能でしょう。
AGC――音量差に騙されにくくする
AGCはAutomatic Gain Controlです。
Input Controlを変更した際の出力レベル変化を自動的に補正してくれます。
特にSaturationを強くすると、音量が上がったことで「音が良くなった」と錯覚しやすくなります。
AGCを使うことで、音量差をある程度抑えながらキャラクターそのものを比較できます。
音作りをするときには非常に便利な機能です。
LIMIT
XTではメイン出力にLIMITも用意されています。
強いコンプレッションやSaturationによって発生したピークを最終段で抑えるための機能です。
ただし、これを本格的なマスタリングリミッターの代わりとして考えるより、
Royal Compressor XT内部で発生する突発的なピークを安全に処理する補助機能
として考える方が分かりやすいでしょう。
Oversampling
画面右上には、
OFF
2X
4X
8X
16X
のOversampling設定があります。
サチュレーションのような非線形処理ではエイリアシングが発生することがあります。
Oversamplingを使用することで、その影響を減らすことができます。XTは最大16倍に対応しています。
リアルタイムではOFF〜4X程度、
最終的な書き出し時に8Xや16X、
といった使い分けも考えられます。
もちろん高いOversamplingほど常に音が良いという単純なものではなく、CPU負荷との兼ね合いを見ながら選ぶのがよいでしょう。
Linear Phase
各ユニットにはLinear Phaseも用意されています。
位相特性を重視した処理を行いたい場合に利用できますが、その代わりレイテンシーが増えます。従来版のマニュアルでもLinear Phaseを有効にすると遅延が増えることが明記されています。
常にONにするのではなく、必要に応じて使う機能と考えればよいでしょう。
Royal Compressor XTの設定例
ここからは具体的なスタートポイントを挙げてみます。
数値は「正解」ではありません。
音源や入力レベルによってGain Reduction量は大きく変わるため、最終的には耳で調整してください。
Vocal――滑らかに前へ出す
Model:BまたはC
Recovery:2〜4
Gain Reduction:2〜4dB程度
Saturation:40〜100%
Dry/Wet:70〜100%
Vari-Muらしい滑らかなレベリングを活かす設定です。
音量を完全に均一化するというより、
声を少し太くして、ミックスの中へ自然に収める
方向に向いています。
Bass――太さと安定感
Model:AまたはB
Recovery:3〜5
Gain Reduction:2〜5dB
Saturation:40〜100%
Dry/Wet:80〜100%
Model Aならアタックを比較的残しながら、音の胴体をまとめることができます。
Model Bへ移動すると、より積極的に音を整える方向になります。
エレキベースだけでなく、Upright BassやFretless Bassにも面白いでしょう。
Drum Bus――パンチを残してGlueを作る
Model:A
Recovery:1〜3
Gain Reduction:1〜4dB
Saturation:20〜70%
Dry/Wet:70〜100%
遅いAttackを持つModel Aでトランジェントを通し、比較的速めのRecoveryで戻す設定です。
KickやSnareのアタックを完全に潰さず、
ドラム全体にまとまりを加える
ことを狙います。
Drum Parallel――思い切って潰す
Model:C
Recovery:1〜2
Gain Reduction:6〜10dB以上
Saturation:70〜100%
Dry/Wet:20〜50%
こちらは逆に、コンプレッサーらしさを積極的に使います。
一度かなり強く潰してからDry/Wetを戻します。
Room Micなどにも面白い設定です。
Mix Bus――ごく薄いGlue
Model:A
Recovery:4〜6
Gain Reduction:0.5〜2dB
Saturation:10〜40%
Dry/Wet:80〜100%
Royal Compressor XTをMix Busへ使う場合は、最初から派手に動かさない方が良いでしょう。
メーターがわずかに動く程度から始め、
「コンプレッションされた」というより、
曲全体が少し同じ空間へ入った
くらいを狙います。
M/Sを使ったMix Bus設定
XTらしさを活かすなら、ここからが面白いところです。
Mid
Model A
GR 1〜2dB
Saturation 20〜40%
Side
Model A
GR 0〜1dB
Saturation 10〜30%
センターを少し安定させつつ、Sideの空気感を残します。
そこから必要に応じてSideのRecoveryやSaturationだけ変更していきます。
Low/Highを使った低域コントロール
例えばクロスオーバーを100〜250Hz付近から探し、
Low
Model AまたはB
GR 1〜3dB
Saturation 少なめ
High
ほぼ無処理、あるいは軽いSaturation
としてみます。
KickやBassが鳴った瞬間にミックス全体が引っ込むような場合には、この方法がかなり有効です。
通常のマルチバンドコンプレッサーとは違い、
Vari-Muらしい滑らかな圧縮と色付けを周波数帯域ごとに使える
ところがRoyal Compressor XTらしい部分です。
最初は1台として使ってみる
Royal Compressor XTを見ると、せっかく2台あるのだからM/SやLow/Highを使いたくなります。
しかし最初から複雑な処理をする必要はありません。
まず通常のRoyal Compressorとして、
- Modelを選ぶ(MODEの1か2を選択)
- Input Controlを上げる
- Recoveryを決める
- Gain Reductionを見る
- Saturationを加える
- Outputを合わせる
という順番で音を作ります。
そのうえで、
「左右で違う処理が必要なのか」
「MidとSideを分ける必要があるのか」
「低域だけがコンプレッサーを動かしていないか」
という問題が出てきたときにXTのSplit機能を使う。
この順番の方が、何をしているのか分からなくなりません。
Royal Compressor XTは「精密コンプ」とは少し違う
Royal Compressor XTを理解するときに重要なのは、これを単純なダイナミクス補正ツールとして見ないことだと思います。
現在は非常に精密なデジタルコンプレッサーが多数存在します。
それらに比べるとRoyal Compressorは、Attackもモデルによって固定され、Recoveryも段階式です。
しかし、その制限こそがこのプラグインのキャラクターでもあります。
Inputを押し込み、
Modelを選び、
Recoveryを決め、
Saturationを加える。
細かな数値を設定するというより、
音を聴きながら楽器のように操作するコンプレッサー
に近い印象です。
そこへRoyal Compressor XTでは、
L/R
M/S
Low/High
という現代的なルーティングが加わりました。
ヴィンテージ的な音色と現代的な処理方法。
この二つを組み合わせられることが、Royal Compressor XT最大の魅力ではないでしょうか。
従来のRoyal Compressorを持っていたユーザーにはRoyal Compressor XTのライセンスが無償提供されており、今回のXTは単なる小規模なアップデートというより、Royal Compressorの使い道そのものをかなり広げる拡張だと言えそうです。
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